はなびらエール

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 窓を開けるとまだ風は冷たい。でも硝子越しに差す陽は冬とは違っていた。ガラと開いた入口を振り返ると竹久が立っている。 「早いっすね、おはようございます」  制服姿の竹久は、ぼそりと言うと空いたデスクに鞄を置いた。 「おはよう。ごめんね、日曜に」  そう言った私に首を振ったように見える。自分を含め、これまでの生徒会長と違う雰囲気に少しだけ戸惑った。 「それっすか?」  私に近い位置のデスク上にある九つのA4サイズの封筒に視線を移した。 「そう、よろしく。そんなには時間かからないと思うけど」  彼の視線に合わせて封筒を見てから自分の作業を進める。新しいA4サイズの封筒ひとつひとつに先生方の名前を書いた。 「教頭もっすか?」  既に名前が書かれた封筒を手に取った彼が、やはり小さな声で。 「念のためね」  彼を見ずに答えた。  昨年の卒業式は行われなかった。今年は卒業式はあるけれど、例年その後に開催されてきた謝恩会はない。三年間お世話になった先生方に謝恩する機会は私たちになくなる。 「会長のアイデアっすか?」  一組と書かれた封筒を手に取って、彼が近づいてきた。 「前期生徒会メンバーのzoom会議で決めたけどね。今の会長はあなたじゃない」  答えながら黙々と手を動かし幾人かの先生の名前の封筒を作ってから、デスクを合わせて一列に並べる。そこに先生の名前が書かれた封筒を置いていった。 「ここに入れていけばいいんすか?」 「うん」  Zoomで打ち合わせたときは、前副会長の遠野君と二人ですることにしていた。彼の家族に陽性者が出るとは考えていなかった。彼からのLINEを見て初めて、スマホの画面の中に溢れる情報を私事と感じた。現生徒会長の竹久にだけそのことを報告したとき、彼が「手伝う」と言ってくれた。
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