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ガシャンと飛び跳ねた金属の塊とかした、ドアと思わしき者の地面に落ちる音が、あたりに響く。
これ程の事故であるのに辺りは、異様なほどに静まり返っている。
野次馬がいないわけではない、事故に巻き込まれなかった通行人も多数いる。
異様なのだ。
原型を留めないほどに変形した自動車のドアが宙を舞うことが。
「楓お姉さん、逃げるよ」
「でも……」
「早く‼」
福馬の声が荒くなる。
楓がふと事故を起こした自動車の方を振り返ると。
ザワリ……
辺りの気温が数°ほど下がった様に感じられた。
辺りのすべてのその場にいる者たちが、そこから目を離せないでいる。
次の瞬間だった。
ベチャ!
また周辺がザワリとする。
大破した原型をとどめていない自動車から、人の腕が伸びてきたのだ。
「お…おい、生きてるぞ……」
「でも……あれみてよぐちゃぐちゃ……」
現れた腕は、全身が血にまみれ、何か所骨折をしているのだろうか?原型がわからないほどにひしゃげている。
ベチャリ……
最初は右手、次は左手、ゆっくりゆっくり這いずるように外へと出てくる。
よく見ると自動車の残骸からはガソリンが漏れている。
いち早くそれに気づいたものが。
「ガソリンが漏れているぞ!逃げろ!引火する!」
誰かが叫ぶと、
その場にいる殆どのものが、膠着から開放され慌ててその場から避難しようとし始めた。
ドン‼
叫び声から数秒でガソリンが引火し自動車は凄まじい爆炎とともに爆発を起こした。
「あ、危なかったね、逃げろってこういうことだったのね、私達は比較的離れてたから……」
冷や汗でもかいたのか、楓が額を拭い、福馬を見ると。
「もう、間に合わない……」
福馬の緊張は未だ解けていない。
楓は不意に福馬の視線の先に目をやる。
すると。
「な、なにあれ⁉」
楓は見た、大炎上した炎の先で確かに立っている人の姿を。
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