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「ねぇ、お姉さん、そんなに急いでどこに行くんだい?僕の話はあんまり聞いてくれないのにさ」
少年は早足で歩く彼女の後ろをピョコピョコとついていく。
「ねぇってば!」
「うるさいわね、私は就活で忙しいの!あんたの変な話なんかに付き合ってる暇なんてないのよ!」
「そうかい?」
「そうよ、だから私じゃなくて他を当たってよ」
彼女はイライラしていた。
彼女は既に十数社面接を受けてはいたがどれも最終面接にすらたどり着けないでいる。
彼女の友人達は既に内定が出ている友人もいるのでなおさら焦るばかりなのだろう。
「でも、自己紹介するくらいの暇はあるんじゃないかな?」
少年はそんな彼女の焦りなどどこ吹く風で常にニコリと笑う。
「僕は福馬、玄奘福馬だよ、そんなに眉間にシワばかり寄せていても福を運ぶ馬なんかいやしないよ?」
福馬と名乗る少年の笑う顔を見て、深くため息を付き。
「そうね、どのみちこれから面接なんかできやしないもんね…、君の方が私よりよっぽどしっかりしてるみたい、私は楓よ神楽楓、かえでっ感じを書いてふうって読むのよ」
福馬はニコリと笑い。
「よろしくね、楓お姉さん」
「こちらこそ、失礼な態度とったお詫びに、お子様ランチくらいは奢ってあげようかな、あそこのファミレスで良いよね?」
楓は交差点を挟んで向かい側にある、ファミレスを指差した。
指差した先の歩行者用の信号機が青に変わる。
視覚障害者の為の音がなり始めたときだった。
ドグッシャ!
「えっ⁉」
信号機が青になった瞬間に赤になっているはずの車線の車が猛スピードで、楓達の隣のガードレールに突っ込んできたのだ。
車は裁断されたパーツを宙に撒き散らしながらクルクルと4.5回転し、前方のビルへとそのままのスピードで突き刺さるように突っ込んだのだ。
楓達は5メートル程離れていたので怪我はないが、今の事故に巻き込まれたであろう数人が悲鳴やうめき声を上げる。
「嘘でしょ?何考えてるのよあの運転手⁉とにかく救急車…」
ガシャン!
恐らくは大破しているであろう車のドアらしき金属の塊が飛び跳ねた。
「お子様ランチも捨てがたいけど、残念だけどね僕の方はんまりゆっくりしている暇はないのさ」
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