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卒業式の翌日から体育館を使うことができるようになった。
3日ぶりの部活に向かうべく廊下を歩いていると、ふと3年の教室へと続く曲がり角に差し掛かった。そこで曲がらずにまっすぐに行けば体育館へ続くのだが、僕は左に曲がった。
誰も登校していない3年の教室が並ぶ廊下は妙に静かだった。上履きが床に擦れる音だけが響く。
真衣先輩のいた3年1組の前で僕は立ち止まり、教室の扉をそっと開いた。扉がレールを転がる音が空気を伝わる。
薄暗い教室には誰もいなくて、暖房も入っていないので空気は冷たかった。
時間を止めてしまったかのような空間で、僕は改めて真衣先輩はいないのだと気づいた。
卒業式が終わってしまえば、3年生はもう学校に来ない。
そんなことは言われなくても知っていることだった。
僕は真衣先輩との日々はまだ続くのだろうと思っていた。
ただ一緒に帰りながら話す、それだけでも夢のような日々だった。終わりなんて来ることはないと思っていた。
けれど、真衣先輩はもうここにいない。
ふと、右の人差し指に痛みが走った。
閉じかけていたひび割れが開いてしまい、少しだけだが血が出ていた。もし真衣先輩がいたら――、そんなことを思うとなぜだか息をすることが苦しくなってきた。
僕は気づいた。もう終わったのだと。
当たり前のように思っていた夢のような日々は終わったのだと。
誰もいない教室で僕は一人、嗚咽を漏らした。涙は止まることを知らず、僕はしばらくの間、立ち尽くした。
夢のような日々が終わり、僕はやっと気がついた。
僕は、真衣先輩が好きだった。
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