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 誰もいない体育館、聞こえるのはバスケットボールが弾む音と僕のバッシュのスキール音だけだ。  ストップモーションから僕はシュートを放つ。ボールが手を離れた瞬間に入るという確信があった。きれいな弧を描いたボールはネットを揺らした。  「よし」 と僕が声を出すと、体育館の扉が開く音が聞こえた。 「広瀬、もう6時になるぞ。体育館閉めるぞ」  体育担当の藤田先生だった。  僕は「わかりました」と返事をして、時計を見る。もう5時50分だった。ボールを倉庫にしまい、入れ替わりでモップを持ち出し、フロアにモップをかける。  他の部員はとっくに帰ってしまったので、ここには僕しかいない。  モップ掛けを終えて、僕は藤田先生に挨拶をして体育館を出た。  廊下の窓から見える景色は真っ暗だった。  この季節は5時を過ぎると、もう真っ暗だ。外はきっと寒いんだろうなと思いながら僕は正面玄関に向かった。  靴を履き替えていると、「広瀬」と名前を呼ばれた。今度は藤田先生のしゃがれた低い声ではない。空気に澄むような女性の声だった。  横を向くと、そこには、サラサラとした長い髪の女子生徒が立っていた。   「真衣先輩」  榊真衣(さかきまい)先輩だった。   「また一人で練習してたの?」 「あー、はい」 「お疲れ。駅まで一緒にいこーよ」  真衣先輩の笑顔に釣られて僕も笑顔を返す。  ここ最近、僕は真衣先輩と毎日のように一緒に学校を出ている。
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