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もう一度、巻末の数ページをめくりなおす。
単語帳の巻末にある索引の前にあるページ、そこには最後の単語が書かれていた。そのページにピンク色の付箋が挟まっていた。
どこにでもあるような付箋だが、こんなページとページの間に挟みこんでいては付箋の意味をなさない。
なんだろう、何か紛れ込んでたのかなと思い、付箋に書かれた文字を読んでみた。
『最終ページに到達おめでとう。一緒の大学で会えたらいいね』
これは真衣先輩の文字だ。それはすぐにわかった。
たった一行だった。
たった一行の文字を読んだとき、ふいに僕の脳内に蘇るものがあった。
あれは、卒業式の後だ。
真衣先輩が、冷たい手で僕の頬に触れたときに言った言葉だ。
『広瀬次第だよ』
僕はその言葉の意味がいまようやくわかった。
あの日、真衣先輩は『遠くから応援している』と言ってくれた。そして、その声が聞こえるかは僕次第だと。
真衣先輩は、声を残してくれていた。
それは僕がしっかりと地道に進めていけば、この最後のページに辿り着き、真衣先輩の声を聞くことができるという意味だったのだ。
しかし、苦手なことを避けて、地道な努力を怠ってきた僕はこのページに辿り着くことはできなかった。
こんなアクシデントでしか見つけることができなかった。
あの夢のような日々に恋い焦がれているだけで、僕は立ち止まったままだった。
「ちゃんとやっておかないと後悔する」と言った真衣先輩の言葉も蘇ってきた。ああ、僕はどれだけ真衣先輩を裏切って来たのか――。
僕は単語帳を閉じた。そして、もう一度、最初のページを開いた。
「まだ……あと半年、あるよな」
夏の夕暮れ、僕の影が長く伸びる部屋で、僕はやっと冬の終わりから動き出すことができた。
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