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*  3年になった僕は、相変わらず部活中心の日々だった。  最後の大会は、創部以来最高記録となる県大会準決勝まで勝ち進んだものの、残念ながらそこで力尽きてしまった。  部活を引退し、いよいよ受験モードになるわけだが、苦手な英語に立ち向かうことはできず、なかなか成績は向上することはなかった。第一志望としてY大学と書いてはみたけれど、E判定が覆ることはなかった。  真衣先輩がいなくなった当初こそやる気はあったが、3ヶ月が過ぎる頃には英語に立ち向かうことは億劫なことになっていた。  低迷する成績を見かねた母に、塾の夏期講習に入れられ、不本意な夏を過ごすことになった。  しかし、そんな簡単に成績が上がるはずもなく、塾内で実施された模試でも僕の英語の成績は散々だった。 「英語37点って。これでY大は厳しくないか?」  空調の効いた塾の休憩室で、野村が言った。  野村は同じ部活、そして同じ塾に通っている。試合中はあんなにも頼ってくれたのに、塾の中では、僕は紙切れ1枚の結果で酷評される。ストレートな物言いの野村を僕は嫌いではない。  嘲笑う野村の隣には、野村の彼女である清原もいた。2人とも同じクラスなので、塾でも僕と話すことが多い。 「英語の何ができないの?」  清原の問いに、僕は「全部」と応えた。 「長文は読めないし、穴埋め、並び替えも全然わかる問題がない。何が書いてあるのかわからない」 「だいぶ初歩の段階だな」 「初歩だね」  野村と清原が同じようなことを言った。塾にカップルで来るのもどうなんだとは思うが、そこは敢えて触れない。 「とりあえずはさ、単語とか熟語をいっぱい覚えるしかないんじゃない? そのベースがないのに長文読解とか穴埋め、並び替えは無理でしょ」 「単語とか熟語ねぇ……」 「こういうのを毎日読むとか」  と野村が見せてくれたのは、どこかで見たような単語帳だった。いや、どこかでというようなものではなく、それは真衣先輩がくれた単語帳と同じものだった。 「あー、それ持ってる」 「持ってるだけじゃあな」 「持ってるだけじゃね」 「2人して同じようなこと言うな」  笑う2人を横目に、僕はあの単語帳をどこに置いたんだっけと記憶を探った。どこに置いたのかわからないほどにあの単語帳にはしばらく触れてもいなかった。  貰った当初に数ページだけ読んだっきりだった。
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