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「これからよろしく頼むな、ヴィネ」
「はい。よろしくお願い致します、ユーヤ様」
慣れないながらも、名前で呼んでくれるその姿が、とてつもなく可愛らしい。
出来れば『様』も取ってもらえると嬉しいのだが、主従関係だと、流石に難しいか。
友達感覚でいよう! とは、流石に言えない。言ってはならないような気さえする。
「それじゃあ、すまないが、部屋まで案内してもらっても良いだろうか? ここは広くて、部屋を覚えるのも一苦労だからな」
「あ、はい! 分かりました」
そのままヴィネが案内しようと一歩足を踏み出したところで、俺は全てヴィネに任せっきりだったことに気付く。
「あ、すまない。コートは自分で持つよ。大変だろう?」
「え、いいのですか?」
「いいって……何がだ?」
俺が訊ねると、ヴィネは困ったように、視線を泳がせた。
首を傾げる俺に、少し躊躇した面持ちで言った。
「その、コートをお持ちしなくてーー」
「コート? ああ、大丈夫だよ。ヴィネに任せてばかりだったし、何より自分のものだからな。自分のものは自分で片付けろ、って母親に言われているような気がして」
「ユーヤ様のお母様……ですか?」
「ああ。俺の母さんは基本的には優しいが、変なところが厳しくてな。俺が誰かに任せっきりで、1人になった時に何もできない人間になってほしくないんだと。そしてそうならないようにするために、さっきの言葉が関係する。自分のものも片付けられない人間が、1人で生きていけるとは思えない。自分のものは自分で片付ける。そう言われながら育ってきたから、その辺のことは自分でするようにしたいんだ。だから、コートは俺が部屋まで持っていくよ」
今頃母さんと父さんは、どうしているだろうか。そんなことを思いながら、俺はヴィネと向き合った。
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