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「やっぱり俺ももう子どもじゃないし、それくらいは自分でするよ。これ以上、ヴィネに迷惑はかけられないしな」
「そんな……迷惑だなんて。私はただ……っ!」
「ヴィネ。主が平気だと言っているのです。今の主は、その程度のことで怒る人ではない。そこまで怯える必要はないのですよ」
間に入ったのは、少女を抱えたレンだった。
後から知ったことだが、レンは魔王の次に権利がある人物らしい。
そのことを言われて、納得した。
ヴィネの叱られた子犬のような表情を見ていれば分かる。
怒られるとか、怯えるとか。不明瞭なことばかりだがーー
「ヴィネ。俺は今日、この場所へ来たばかりだから、この世界について、前魔王について何も知らない。お前たちのことも、今まで何があったのかも分からない。だから、前の魔王と同じように接しなければならない。そう思ってしまう気持ちは分かる」
本当に分かっているのか。
そう聞かれてしまったら、答えられない。
それでもーー
「俺はお前たちに、怒りたくはない。もし俺が、ヴィネたちに怒るとすれば、それは己の命を捨てようとした時くらいだろう。それ以外は……その場の気分だ!」
言っていて、何を言っているんだこいつは……と、俺自身が思った。その場の気分で怒られたら、溜まったものじゃないな。
俺は自身の言葉に、ため息を吐いた。
意味が分からない。先ほどから、言葉が滅茶苦茶だ。それでも、伝えたい。俺はお前たちのことをーー
「大切な仲間だと思っている。だから、そんなに怯えずに、安心して俺に頼ってほしい」
この言葉が正しいのか、俺には分からない。
もしかしたら間違っているのかもしれない。ヴィネのことを傷付けてしまうかもしれない。
それでも、少しでも怒っていないと、迷惑ではないということが伝わってくれたらーー
「ーー分かりました。では、コートをお返し致します」
コートが俺の手に渡る。
そのコートに温かさというものを感じなくて「うん?」と首を傾げた。
「ユーヤ様? 如何なさいましたか?」
「いや、何でもない」
「そうですか? それでは、お部屋にご案内致します。レン様と人間は、如何なさいますか? ユーヤ様のお部屋に?」
「私はこの者を地下室へと入れた後、主人のお部屋にお邪魔させていただきます」
「別に部屋に来ることは構わないが、丁重に扱えよ。殺すことは許さない」
俺の瞳を真っ直ぐに見つめた後「承知致しました」と言い、深くお辞儀をした後、背を向けてその場を離れる。
「では、私共も行きましょう」
ヴィネは俺に一言声を掛けると、レンに声を掛けることなく、背を向けて歩き出す。
そんな2人の様子を、俺は間で交互に黙って見つめる。
「ユーヤ様? お部屋に行かれないのですか?」
中々歩き出さない俺に、ヴィネは不思議そうに首を傾げている。
「あ、すまない。行こうか」
俺はヴィネの許まで歩く。
不思議そうに俺の顔を見つめていたヴィネだが、俺が何も言わないと察したのか、顔を前に向けて説明をしながら歩いた。
何も聞いてこないことに、違和感を覚えた俺だったが、細かいことは気にするなってことで……いいよなっ!
部屋に着くまでの間、俺はそのことについて、特に考えることはしなかった。
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