目が覚めたら魔王城

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 けれど、声を立てて笑う父に、俺は思う。  ーー不思議なのは父の方だと。  何故、赤の他人を家に連れて行くことができる? それが優しさというものなのか?  父の話だと、母と当時の2年前に亡くなった妹さんの全てが似ていたから、ということだった。助けたいと思った理由も、初めはそこから来ていたと。  けれど、だからと言って、確証も得られていない理由で、家に連れて行こうなんてーー 「佑夜にもいつか分かる日が来るだろう。相手のことを何一つとして知らない。そんな状況でも、助けてあげたいと思った、あの時の父さんの気持ちが」 「ふーん? よく分かんねぇけど、取り敢えず覚えておくよ」 「まあ、お前のことだから、大切だと思える人は必ず現れるだろう。お前は父さんと違って、基本何でも出来てしまうからな」  いや、父さんも基本できる人だろ。  俺は父の仕事を見たことがあるから知っている。色々な人と関わり、色々な人を笑顔にしていく。それが父さんの仕事だ。 「俺なんてまだまだだよ」 「そんなに自分を謙遜するな。まあ、俺はそのことについては心配していない。それは覚えていてほしいんだがな、あれだ!」  ーーどれだ。  心の中で突っ込みを入れる。  しばらくしてから父は言った。  いや、しばらくと言っても、30秒も経っていない気がする。よく分からない。 「いつ、何が起こるか分からない。最近では、異世界転生だとか転移だとか。色々な言葉があるから、自分だったら……という妄想はしておけ。父さんみたいに、別々の世界にいた者同士で、結婚するかもしれないしな」 「もうっ! 隼人(はやと)ったら!」  奥から母が出てきた。  どうやら夕飯ができたらしい。  因みに、母が言った隼人とは、父のことだ。  橘隼人。それが父の名だ。  母が橘千尋。そして、そんな2人の子供が俺、橘佑夜といったところだ。 「母さん、いつもありがとう」 「いいのよ。私はあなたが大きく成長して、幸せな未来を築くことを願っている。生まれてきてよかったと、思えるような人生。そう思ってもらえふのなら、私は何だってやるわ。佑夜、私はずっと、あなたの味方よ」 「父さんもお前の味方だからな! 相談したいことがあったら、遠慮せずに言えよ? いいな?」  父さんも母さんも、特殊な出会いをして、色々な体験をしてきたからか、決まってその言葉を俺に言う。自分たちが、実の両親に愛されなかったからか、そのことについて、とても敏感だった。 「お、おう」  もう何度その言葉を聞いたのか分からない。  疑うことなんてしない。  いつもは、ここで曖昧に答えて終わりにしていたけれど、少しは素直になろうか。 「父さん、母さん。いつもありがとう」  突然の感謝の言葉に、父と母はきょとんとした顔を見せた。自分の息子のことをしばらく見つめていた両親は、優しい笑みを浮かべた。  それから言った。 「こちらこそ、いつもありがとう。あなたが私たちの元に生まれてきてくれて、本当に嬉しいわ」  その言葉に、俺は涙をこぼした。
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