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「ーー魔王様、起きてください」
近くで声が聞こえる。
「我が主よ! 今あなた様が目を覚ましてくれなければ、我々の敗北が確実にーー」
【いや、主って何の話? 我々の敗北って? 誰かと戦っているのか?】
「主の指示がないと困るのです! どうかご指示をっ!!」
【そんな切羽詰まった感じに言われても……何か予想以上に眠いから、まだ寝かせてくれない?】
「主よ! 今は寝ている場合ではないのです!」
【寝ている場合ではない、って言われても、眠いものは仕方がないだろう? というか、本当に主って何? 俺、いつの間にかそんなに偉くなった? ただの高校生なんだけど】
俺は心の中でツッコミを入れる。
【言われるとしても、先輩という言葉だろう、普通。主って、どこかの城の王様とか、領主とか、もしくはファンタジーに出てくる魔王とか。そういった類のものだろう? どれだけ異世界ものに飲まれているんだよ】
「主! 早くしないと、人間どもが我々のことを殺しにきます! ここにいる全員、地獄行き直行でございます。早く……早く起きて下さらねば我々はーー」
切羽詰まった様子に混じって、その声は震えていた。
【ーーえ、突然そんな声を出さないでくれないか!? 俺がいじめているみたいじゃないか! それに、人間が殺しに来るって、一体どんな世界観だよ!】
「まあまあ、無理矢理召喚してしまったからね。目が覚めていなくても仕方がない」
先ほどとは別の誰かの声がした。
俺はそれに頷く。
【そうそう。ーーって、うん? 召喚? 誰が召喚されたって?】
「体は保管庫に置いてある。魂だけを移したから、あとは彼が動かそうという意思を持てば、全て解決。けれどまあ、召喚に成功しただけでも奇跡だ。その先に時間がかかってしまうのも無理はない。まあ、人間が殺しに来るまで、少しの時間がある。防壁の強化と、覚悟を決めておいて」
「レン様……! 了解致しました」
ドタバタと、1つ、また1つと足音が離れていく。おや? その場にいたのは2人だけではなかったのか。
それにしても、レンと呼ばれた人物。
その声に聞き覚えがあった。
あれは確かーー
「ーーはあ、ようやく見つけたというのに、期待外れだったな」
先ほど指示を出していた人物と、同一人物だとは思えないほど、冷たく言い放つ。そこまで高くない声が、更に低くなる。
その言葉は、怒っているから出ているのではなく、失望や諦め。落胆から来るものだった。
レンと呼ばれた人物は、一人芝居をはじめた……
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