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「前の主が亡くなって早100年。この100年の間、人間どもに隠すことができていたのは、正直に言って軌跡に近い。本来ならば、もっと早い段階にこうなっていておかしくなかった。そしてそれが今、この場所で起きようとしている。いや、起きている。仲間たちはこの争いで、命を落とすことになるだろう。偽りの主のことを想いながら……っ!」
「ーーッ! こっちが黙っていれば、好き勝手言いやがって! 俺だって好きでこんな目に遭っているわけじゃーー」
「おや、主。目を覚まされたのですか。もう少し、情報を入手してから起きてこられるのかと思われましたが、予想が外れてしまいましたね」
くすりと笑ったレンという男の言葉と言動で、無理矢理起こされたのだと知る。
俺が起きてくるようにわざとそう、仕向けたのだ。
「起こす気満々だったくせに」
「はて? 一体何のことでしょう?」
「まあ、いい。とりあえず、俺が命令を下せばいいんだな?」
「ご理解がお早いことで。その通りでございます」
「あれだけ言われたら、嫌でも分かる。それで……レン、だったか? 早速命令をしてもいいか?」
レンは一瞬、目を見開いた。
けれど、それはすぐに元に戻った。
「何なりと」
「では、先ほどとここにいた者たちに、このまま壁の強化を続けるように指示を。そしてそれと一緒に、殺す覚悟と死ぬ覚悟はするな、と伝えろ」
「なっ! しかしそれではーー」
「分かっている。確かに俺は、この状況を完璧に理解しているわけじゃない。今まで何があったのか、この世界が何なのか、俺は何一つとして知らない」
俺は首を横に振った後、続けた。
「先ほどのお前たちのやりとりを聞いて得た情報を頼りに、話している。お前が不安になるのは分かる。けれど今は俺のことを信じてほしい。1人の死者も出さずに、この状況を変えてみせるから」
俺はレンを見た。
真っ直ぐに見つめ、視線を逸らさない俺に「ーー主の命令とあらば」と言い、頭を下げてレンはその場を後にした。
1人残された俺は、ぐっと拳に力を入れる。
頭が痛い。状況が分からない。情報が多すぎる。
「1人の死者も出さずに……か。一体どうやってだ?」
俺は自分の言葉に苦笑する。
何の解決策もない。
打開策なんて見つかっていない。
このよく分からない状況をどうやってーー
「主、命令通り壁の強化に皆、回っています。私はどうすれば?」
「ーーーーレン、攻めてくる人間は、後どれほどでこの場所に到着する?」
「監視等に配備している者の情報によりますと、残り5分もないとのことです」
「……っ!」
【残り5分!? 5時間ではなく……!?】
「いかが致しますか、主よ」
「ーーレン、一つ聞いてもいいか?」
「もちろんです」
「ーーもし俺が目を覚まさなかったら、どうするつもりだったんだ?」
「どうする? そんなの、決まっているではありませんか!」
レンはくすりと笑った。そして言った。
「皆殺し。全員死ぬまで戦うつもりでおりました」
「皆殺しって……正気か?」
「当然でございます。殺らなければ殺られる。この世界は、そういう風に作られています。ですが……そんな世界を変える力が、主には宿されています。この最悪な状況を、頑張って変えていただきたい」
ーー頑張って変える。何、その無理難題。
正直に言って、難しいと思われる。何故、魔王が死んだと分かって人間が攻め込んでくるのか。それも、100年の時が経ってから? 不可解なことばかりだ。
けれどもう、やるしかない。
「人間が攻めてくる位置は?」
「東のオホラドバという街から来ます」
「東だな。では、迎え撃つとしよう。レン、あとで聞きたいことが山ほどある。質問に答えてもらうぞ?」
「もちろんでございます」
「あ、それからーー」
俺はレンに耳元で命令を下した。
その命令を聞いたレンは、にやりと笑った。
「主の命のままに」
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