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「さてと」
俺は人間たちに、視線を向けた。
人間たちは、びくんと肩を震わせた。俺に酷く怯えているようだ。
俺、何もしていないんだけどなぁ。
心の中でぼやいてみる。
まあ、話し合いに乗らなかったのはそっちだし? こっちが何をしたのかなんて、俺が知るはずがないし? 自業自得ということで。
「まあ、見て分かる通り、この子を人質に取らせてもらう。返してほしかったら、今日のところは帰ってもらいたい。俺は誰1人として、殺したくないんだ。察して帰ってくれ」
「あ、主よ。説明し忘れておりましたが、その者のたちはーー」
「誰一人として殺したくないだと? ふざけるな!!」
レンの言葉を遮って、先頭にいる怖いおじさんは言った。
恐らく、この人間の中でのリーダーなのだろう。後ろにいる者たちは皆「そうだ、そうだ!」と、賛同していた。
男は言葉を続けた。
「俺たちに黄泉がえりの呪いをかけたのは、他の誰でもない、お前だろ! 殺したくないというのなら、この呪いを解け! 既に殺すことと同等のことをしておいて、今更何をーー」
いや、そんなことを言われても、正直に言って知らないし。
黄泉がえりの呪いって、そもそも何? この世界って何でもありなのか?
まあ……黄泉がえりってことは、あの世から帰ってくるってことだろ? その呪いをかけられたということは、つまりーー
「なるほどな。覚悟を決めるのは、こちら側だけで、向こうはそんな必要なかった、ということか。なるほどなぁ」
俺はこくんこくんと頷いた。
「じゃあ、殺しちゃっても大丈夫だな!」
元気よく俺は言った俺は、パン!と手を叩き「レン、その者が持っていたナイフを、俺に渡せ」と指示。レンはにこりと笑ってそれに従う。
俺はそのまま近づいていく。
人間たちは後退する。
「おや? 下がるのかい? 君たちは私たちを殺すつもりで、わざわざ険しい道のりを歩いてきたのだろう? それとも、殺されるために来たのかな?」
「なっ……! ふざけーー」
「ふざけているのは、そっちだろう?」
俺は駆け出した。少し痛い目を見てもらうために。
「一回死んでおけ」
風を切る音。
男の喉が、横に裂けた。鮮血がしぶく。
男の顔には疑問符。
駆け出した俺は、言葉を放ったのと同時に、持っていたナイフで素早く喉笛を掻き切った。
男はその事実に気づく前に、血を吐いてその場に倒れた。
男が起き上がってくる気配はない。
「ーーレン、黄泉がえりというのは、死んで生き返るのだろう? この者は、ここで生き返るのか?」
「いえ、ここでは生き返りません。リスポーン地点という、この世界に来た時に1番初めにいく場所へ送られます。記憶はそのまま持続されるため、主が殺したその者は、生き返った後に主に殺されたことを覚えております」
訊きたいことが増えてしまったが、今は一先ず置いておこう。
それよりもーー
俺は残りの人間を見る。
「ーー君たちも、一度殺されてみるか?」
「ひっ……」
全員が悲鳴をあげて後退していった。
そんな人間たちの表情はまるで、悪魔でも見ているかのようだった。
「なあ、レン」
「何でしょうか、主よ」
「俺って……悪魔みたいか?」
「いいえ、主は悪魔ではなく魔王です」
喜んで良いのか分からない言葉に、俺は苦笑するしかなかった。
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