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ほんの悪戯だった。
小学校6年の夏。
蝉の劈く声が喧しい。
不快な蒸し暑さと抜けるような青空が俺をイライラさせていた。
「彰は、お父さんと仲良くね」
荷物を纏めた母親が妹の手を取り玄関で俺に向かって言った。
俺は、その言葉の意味と共に母親に縋るための言葉を呑み込む。
蝉が鳴いていた。
汗が頬を伝う。
母親に仲良くねと言われた父親は仕事に出掛けている。
俺は家に一人、取り残された。
リビングに戻るとテーブルの上に置き去りにされた妹の人形があった。
ほんの悪戯心だった。
その人形の服を脱がし始める。ワンピースの背中のバリバリをはがし、洋服を脱がせ、人形のクセに身に着けている下着が生意気だとはぎ取った。
裸にした人形の手足のつなぎ目が軋むほど、あちらこちらに曲げて遊ぶ。
足を大きく広げたり、腕を上げてみたり、スタイルの良いその人形は瞳をキラキラさせて、クルンとカールした長い髪がお洒落に整えられ、笑顔で俺を見ている。
在らぬ方向に足を折り曲げているにも関わらず、笑顔の人形。
その ちぐはぐな様子に夢中になった。
人形の足を高く顔の方へ、まるで二つに折りたたむようにしてみたり、腕を万歳させてみたり、後ろに回して見たり……。
もしも自分がそんな恰好をさせられたならば恥辱に震え、苦悶の表情を浮かべずには要られない状況なのに、人形は笑っていた。
そう、早熟だったのかも知れないが、俺はこの時、性的興奮を覚えていた。
裸の人形の足を折り曲げたり伸ばしたり。仕舞いには足がもげるに至った。
もげた足は上手く戻すことが出来ず、とうとう、その人形は壊れてしまう。
笑顔を向けたまま足がもげてしまった人形。
壊れたままの人形は、瞳をキラキラさせて、クルンとカールした長い髪がお洒落に整えられ、笑顔で俺を見ている。
俺は、人形をゴミ箱に投げ棄てた。
蝉が鳴いていた。
母親に捨てられた。
熱い夏の日だった。
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