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「――若頭?」
若頭って。あの。やくざの中でめちゃくちゃ偉くて。ってか次期組長で。
そして私のお見合い相手で。
それでお兄さんたちがそう呼んでるのは紛れもなくアラタくんで。
えーっとつまり。
もしかしてもしかしてもしかして。
「アラタくんって、もしかして」
そこから先が言えない私に苦笑して、アラタくんが答える。
「泣く子も笑う天下のスーパーアイドル:藤枝アラタ。副業で水島組若頭やってるよ」
「チッ」
アラタくんの笑顔の向こう側で、大げさな舌打ちが聞こえた。
「こっちが副業かよ。ナメられたモンだぜ」
後ろに控えた黒服たちの中で、比較的着崩れた格好の人がめっちゃアラタくんを睨んでいた。
そんな彼の後ろに、逆にしっかりとスーツを着こんだ人が忍び寄る。
私の角度からは丸見えだったけど、足音が全然しなかった。
案の定、咳ばらいで気付いた舌打ちマンは相当驚いた様子で振り替える。
「やれやれ。若頭に向かってそのような態度は感心しませんよ、水島峰雄さん」
「江崎てめェ、フルネームで呼ぶんじゃねえ!」
江崎って呼ばれたしっかりスーツの男の人がけらけらと笑う。
物腰やわらかそうな立ち居振る舞いで、周りがやくざばっかりじゃなかったらやくざには見えない。
一方の水島峰雄さんは、見るからに眼光が鋭くてやくざって感じ。
ん? 水島峰雄さん、水島……?
「峰雄クンね、今の首領の実の息子さん」
アラタくんがこっそり私に耳打ちした。
「俺が若頭に選ばれたから妬いちゃってんの」
「聞こえてんぞ、藤枝ァ」
峰雄さんがバキボキと拳を鳴らして威嚇する。
「あ、マジ?」
「アイドルだか何だか知らねえが、お前の声はよく通りやがるからなァ」
「あは、センキュゥ」
「褒めてねえよ!」
今にも殴りかかりそうな剣幕だけど、峰雄さんは拳を振り上げることすらしない。
いくら組長の息子さんでも、こんなところで若頭を殴っちゃまずいんだろな。
アラタくん……こんな感じだけど、ちゃんとめちゃくちゃ偉いみたい。
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