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「せめてサブスクサービスとか入るべきなんだろうけど」
いくぶん軽くなった財布を握りしめ、せっかくだから缶コーヒーを買う。
小さなスチール缶のほうが財布より重い気がして、憂鬱に拍車がかかった。
秋風が身に染みる。ちょっとスカートが短すぎた。
「でも配信じゃ握手券つかないし」
ホットコーヒーをで身体を温めながら、力強いけどしなやかな手の感触を思い出す。
本当は握手会なんて行ってる場合じゃないことも、十分わかってるけど。
でもアラタくんの癒しがないと世の中は漠然とダルすぎて。
だから私はどうせ、不真面目にしか生きられないんだ。
「早く帰ってヘビロテしよ」
そう思った矢先。ハンドバッグの中からアラタくんの歌声が聞こえた。
スマホの着信音、それも通話のときの曲。
前もっての連絡なく通話がかかってくるときって、だいたい緊急でだいたい悪い要件だ。
パピーが事故った時を思い出して、私はちょっと暗い気分になる。
でも、出ないわけにいかないし。
スマホの画面にはダブルピースの兄さんが表示されていた。
やたらハイテンションな自撮りは、ネタでJK向けの加工アプリで盛ってあって、パッチリお目目がシュールだ。
その下に指をスライドさせて、私は通話を繋ぐ。
「もしもし?」
「あっ、ココア? オレオレ!」
「オレオレって」
私は失笑する。本物のオレオレ詐欺師によるオレオレって。ギャグか。
「いやホントそんなふざけてる場合じゃないってマジやべーんだって!」
兄さんの言うことはテンパっててさっぱり要領を得ない。
けど、本当に『マジやべー』ってことは完全に伝わった。
なんとかなだめて話を聞き出すと、とんでもない言葉が飛んできた。
「実はヘマしちまって、サツに目ぇつけられちまってよ」
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