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下北沢の中規模ライブハウス。
すっかり売れっ子になったアラタくんが、久々に近くで見られるライブ会場なのに。
ステージライトが涙でにじんで、アラタくんの笑顔が光に溶けていく。
それとは裏腹に、透き通った声だけ私の耳までまっすぐ突き抜けて。
「イエーイ、オーケーィ! それじゃあラスト一曲行ってみよう!」
――ああ。かっこいいなぁ。
もちろんアイドルなんだから、顔も声もかっこいいんだけど、アラタくんがかっこいいのはそこだけじゃない。
アラタくんはなんというか、すごく真面目にアイドルをやってるんだ。
もちろん表面的なキャラとしては不真面目でチャラい感じで売ってるんだけど。
でも、インスタもYouTubeもTwitterも、アラタくんのSNSは全部追いかけてるからわかるよ。
例えば、キレイな蜂蜜色の髪は、不自然にならないよう毎週少しずつ染めている。
例えば、指先までカッコよくキマったダンスは、レッスンのほか自宅でも練習を欠かさない。
そして何よりそのどこまでも澄んだ歌声は。
デビュー前に家族に反対されてもずっと一人で歌をがんばってきた。
そんなアラタくんの全てで。
それが私たちファンに惜しみなく届けられて。
――やばい、泣く。
ペンラを握った袖で、ぐいっと目元を拭う。
ちょっとフンパツしてアイメイク全部ウォータープルーフにしてきてよかった。
どうにか泣き止んでステージを見る。
アラタくんと目が合った。
パチンとアラタくんがウインクする。
――どうしたの? 泣かないで、笑って!
自意識過剰かもしれないけど、確かにそんなメッセージを受け取った。
そうだよね。
どこまでも明るいアラタくんのライブに、泣き顔は似合わないよね。
だから、私は無理やり笑ってステージにいっぱい手を振った。
――結婚したらもうライブとか、あんまり行けないかもだけど。
でも、ずっとずっと推しだからね!
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