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「えっ」
「ココアちゃんって、海についての新曲があるライブでは青着てるとか、今日だったら夜空のイメージの曲があるから黒とか、いつも俺の曲に合わせて服選んでくれてるじゃん?」
そんなところまで見られていたんだと、私は恥ずかしくなる。
だって私がいつも着てる服って、そこらへんのプチプラブランドだから。
「ゴメン。あんまりイイの、着てなくて……」
「なんで? すごくライブを楽しんでくれてるって感じですっごく好きだよ!」
ブランド服のコって、俺のライブを見に来てるというより自分をアピールしてる感じ?
なんて言って、アラタくんは苦笑する。
目元はサングラスでよくわからなかったけど、それでも。
それでもアラタくんから離れたくないって思うには、十分だった。
もうすぐ終点の渋谷に着くことを、車内放送が告げる。
ドアの前に移動するアラタくんの背中を、少し離れて追いかける。
――降りる駅まで一緒なのに、これからどんどん離れていっちゃう。
悲しみで心臓が押しつぶされそうになりながら、私は渋谷駅のホームに降りた。
未練がましくアラタくんの背中を目線で追いかける。
せめて進む方向が別れるまで、せめて進む方向が別れるまでは、アラタくんを視界に入れておきたかった。
改札からずっと進んで、地下を通って宇田川口を出る。
チカチカするネオンサインに、アラタくんの金髪がよく映えている。
センター街を突っ切って、雑居ビル群を進んでいく。
――あれ? アラタくん、こっち方向に何か用事かな? それとも住んでるのがこの辺かな?
薄暗いビルばっかりの、治安の悪い道は。
これからやくざの若頭とお見合いの私にはおあつらえ向きなんだけど。
ライブ終わりのアイドルが歩く道としてはすごく不自然で。
正直、アラタくんが迷子なんじゃないかって、何度か声をかけようか迷った。
でもアラタくんは全く悩んでいるように見えなくて。
私がキョドっていると、アラタくんが突然立ち止まった。
「ねえ、ココアちゃん? まさかとは思うけど、俺のこと尾行してないよね?」
「えっ、ち、違うよ!?」
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