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確かにアイドルの後ろをファンがずっとついてきたら、そう思われるのも無理はない。
どう言い訳したらいいかと、私は頭をフル回転させる。
「たまたま方向が一緒で」
「そうだよね。ココアちゃんはルール違反の出待ちすらしてたことないのに、そんな堂々とストーカーするわけないよね」
こっちに向かって微笑みかけるアラタくん。
サングラスで目元が見えないからすごく怖いんだけど……もしかしてすごく疑われてる?
ただでさえこの後憂鬱すぎるお見合いなのに!
その直前にアラタくんに嫌われるなんて最悪!!
そんなふうに私が悩んでいると、アラタくんは長いため息をついた。
ため息すらイケボで、さすがアイドルシンガーって感じ。
自分が疑われてそうなことも忘れて聞き惚れていると、アラタくんがサングラスを外した。
「弱ったな。ストーカーじゃないってことは、もう一つの『まさか』だ」
にっこりと笑って、アラタくんが三軒くらい先のビルを指差す。
何の看板も出ていない、ちょっと煤けたビルは。
――どうしよう、私の目的地だ。
他のテナントで打ち合わせ、とかじゃないと思う。
他のテナントが入ってるところで、やくざが若頭のお見合いなんかしないだろうし。
そもそもアラタくんの口ぶりがそんな感じじゃない。
ってことは、アラタくん、関係者?
芸能事務所が裏でやくざとつるんでるとか、真偽不明の噂はよく聞くけど。
でもそういう浅い感じの関わりで、若頭のお見合い会場に呼ばれる?
はてなマークで頭がいっぱいの私を、アラタくんが手招きする。
一緒にビル脇の階段を上り、二階のドアを開ける。
――階数まで一緒ってことはやっぱり関係者なんだ!?
って驚きは、次の瞬間上書きされた。
だってドアの向こう側にいたいかつい黒服のお兄さんたちが、一斉にこっちに頭を下げたから。
「お疲れさまでございます、若頭!」
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