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不真面目
私はどうせ、不真面目にしか生きられない。
なんて言うと叱られるかもしれないけど、どうしようもない事実だ。
田中琥琥愛なんて名前の時点で、もう両親からしてバカなのがわかる。ちなみにひとつ上の兄は琥良というアレっぷり。
そんなキラキラネームをよこしてくれた両親は、私の高校進学が決まった直後に飲酒運転で事故って死んだ。
被害者がいない、一人相撲の事故だっただけマシだったかな。
とにかく、せっかく進学が決まったばっかりの私を高校に行かせるために、中卒ニートだった兄さんは働きはじめた。
そんな兄さんに、感謝なんかしちゃいけないんだと思う。
だって兄さんの仕事はいわゆるオレオレ詐欺だから。
中卒ニートが急に働こうとしたところで、妹の学費をまかなえる仕事なんて表にはない。
正直、そこまでするくらいだったら私だって別に中卒でよかったけど。
中学でつるんでた友達と離れたくないって理由だけで入ったFラン高校は、当然のように学歴としてはまったく無意味で、卒業後三年した今もどうせコンビニバイトだ。
――でも、なにより私が不真面目なのは。
「いつもありがとうございますー」
「あ、どうも」
CDショップの店員さんに愛想笑いして、私はレジ袋を受け取る。
『いつも』なんて言われると、本当にいつも来てることがわかっちゃって嫌な感じ。
まあ、実際いつも来てるんだけど。
店を出ると、横の自販機コーナーに移動して少し深呼吸。
レジ袋からCDを取り出して、じーっと見つめる。
ハニーオレンジに染めたサラツヤのセミロングヘア。
涼しげな切れ長の目に、すっと通ったまっすぐな鼻筋。
――ナイトメアプロダクション所属のアイドルシンガー、藤枝アラタくん。
ジャケ写の彼は、自販機の安っぽいランプの中でも、高級なシャンデリアみたいに輝いていた。
そう。なにより私が不真面目なのは。
それこそ兄さんが犯罪に手を染めるほどにお金に困る人生を歩んでいるのに。
自分の給料を推しアイドルに貢いでいるところだと思う。
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