序章 訪問者の話

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序章 訪問者の話

 私は、魔術師にあこがれていた。普通の人にはできないようなことができる、魔法使いに。あこがれてはいたものの、私は魔力を持たなかった。魔術師に会いたい。そして、魔力をもらえるならもらいたい。そういう思いでこれまで過ごしてきた。  私が中学二年に進学して二か月ほど。私は親に頼まれてとある洋館に行った時の事。  どうやらその子は召使いさんと二人暮らしで、召使いさんが親の知り合いであり連絡先を交換していた。そのため、よくその子の事を召使いさんが親に相談していたみたい。  魔術師だということ、魔術失敗で暴走を起こし、危険だから家から出て行けと言われたこと、だけど心配だから私が様子を見に行ってほしいこと。その三つを伝えられ、私は承諾した。だって、魔術師に会うことができるんだもの。  そうして向かった洋館は、蔦に囲まれていた。館のあっちこっちに蔦が絡まって、ほとんど廃墟。でも、一か月前までは綺麗な装飾が見えたりしていたらしい。遠くから見ていても、すごい館だとは思っていた。その館に入れるだけで私は嬉しかった。  二階へ上って一番奥の部屋。その部屋が一番蔦が絡みついて密集していた。その部屋の扉を押し開ける。  部屋の中は、どうやら館の主が使ってた部屋みたいで、生活感が一番残っている。そして部屋をすべて見渡そうとして。部屋の奥。ベッドの上に座る少女がいた。  茶色の髪に、一回り蔦が巻き付き、花が一輪咲いている。編み込みがついたシャツに、二重構造のスカート。体の半分に蔦が絡みついていて、濃緑の悪魔の羽が生え、羽根にも蔦が絡みついている。  そんな悪魔のような姿の少女だった。だけど、私はその子の事を怖いと思わなかった。むしろ、憧れしか抱かなかった。  そんな少女とずっといたくて、私はほぼ毎日のように通った。通うたびに少女は私にやさしくしてくれるようになった。  ―――私は、その少女を一人にしない、私はその少女を見捨てない、と心に決めた。
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