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一章 出逢いの話
私は動くつもりはない。だけど、そんな私にずっと触れてきてくれる少女は守りたい。そんな感情を思い出させてくれたその子の事を考えていると、名前すらまだ聞いていないことを思い出す。私は今日、思い切って次の日彼女が来たときに聞いてみた。
「・・・ね、ねえ」
「ん?なに?」
思ったよりいい声だった。一ヵ月喋らなかった人の割にはいい声だと思う。ほとんどかすれていない。ただちょっと出しずらいけど。すごく意外。
「・あ、彼方・・・名前は?」
「私?私はノア、深木ノア!」
「ノア・・・、ね。私はユイ、示都ユイ。よろしく・・・、ノア」
そう、私はユイ。一ヵ月ほど忘れようとしていたけど、私の名前はユイなんだ。
ノアには色々思い出させてもらえている気がする。感情や記憶、そして人と触れ合う暖かさと安らぎ。
――その日、私は夢を見た。夢は、どちらかというと昔の事を思い出しているようなもので、私はそのことを知っている。
私は学校にいた。放課後の事で、私は自分の机で荷物をまとめて帰る支度をしている所だった。
「ねえユイちゃん!」
「なに、コトネ」
私の友達であるコトネが机にやってくる。薄水色の髪を下の方で二つ結びにしている。
「ユイちゃんって明日ひま?」
「うーん・・・、明日は大丈夫。明後日は・・・怪しいけど」
「ぃやったー!魔術の練習付き合って―」
「別に大丈夫だよ。ちょっと厳しめに行くけどね」
「いーのいーの。ユイちゃんは厳しめに行った方がユイちゃんらしいもの!」
「それどういうことよ!コトネ!」
それでこそコトネらしいのだけど。そんなコトネが私は好きだった。
「まあいいの。じゃあ下の午後1時にユイちゃん家行くから」
「わかったよ。でさ、コトネは今日一緒に帰れる?」
「だいじょーぶだよー」
というと、コトネは自分の机に戻り、荷物をまとめる。
「ねーユイちゃん、あんなのあるよ!」
「おいしそうだね。あ、コトネは自分で買ってね」
「やっぱユイちゃんは固いなあ。まあいいよ。じゃあ私買ってきちゃうねー」
そんなくだらない日々が私にとって大切な宝物だった。忘れたくない大切な思い出だった。
――それがある日、突然崩れ去る。
「だめ、近づいてこないで!」
「わ、どうしたの!?ユイちゃん!!」
あの時か。私に絡みついてくる蔦も、今じゃ私の身体になじんで来ている。当時は相当辛かったけど。
「失敗したみたいなの・・・。これじゃコトネも巻き込まれちゃうから!早く館から出て!危ない!」
「嫌だよ!ユイちゃんを置いて逃げれないよ!」
「私はもう逃げれない!だからコトネ・・・ごめんね。ばいばい」
「ユイちゃん!ユイちゃん・・・!」
こんな姿になるとは思っていなかったけど、コトネを巻き込みたくはなかった。自分が犯した失敗は自分で片をつける。そう決めたのだ。だから、私はあの時一人でいることを決められたのに。
「―――ゃん?まだ寝てるの?もう昼だよ?」
「あと少しだけ寝かせてよ・・・コトネぇ・・・」
「どうしたの?夢でも見てるの。私はノアだよ?」
「ええ・・・・・・、!!!!!」
「あ、起きた?」
私はどれだけ寝ていたのか。夢に浸っていたため、ノアの声がコトネの声に聞こえてきてしまった。すっごく恥ずかしい・・・。
「・・・・・・」
「もしかして照れちゃってる?」
「うううるさいわねねねね」
「落ち着いてよー、ユイちゃん?」
まあこれもこれでいいのではないかと思ってしまう。ちゃん呼びで呼ばれるのが慣れていないだけだと思うだけ。
ノアについて、もっと知りたい。そう思える自分が幸せだった。知りたいと思えるほど仲良くなれる自分がうれしかった。
ノアを守る、と決めた。もう運命がどうなったっていい。ノアが私の手で殺される運命なら、私はそれを書き換えてみせる。そう決めていた。コトネと同じように。
―――あの時までは。
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