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二章 受渡しの話
一週間後に約束してしまった。ノアの嬉しそうに話していたから。ノアに笑顔でいてほしかった。だけど、ノアが私の強力な魔力に抵抗できるのか、そこが一番心配なんだ。自分でもそう思う。
自分の手でノアを傷つける。強いて言うならノアを殺してしまう。それが私が一番恐れていること。でも、ノアには笑顔でいてほしい。頑張って、受け渡す量を調整してみよう。そうすればきっと大丈夫・・・!
毎日のようにやってきてくれるノア。
ついに明日が受け渡しの日になった。私は心配だからという理由で、今日は泊まってもらうことにした。
「ねえユイちゃん。大丈夫だよね・・・?」
「うん、きっと・・・」
私のベッドに乗ってくるノア。私の隣にやってきて、ベッドに腰掛ける。
「ユイちゃん、抱きしめていい?」
その言葉を聞いた時、私に衝撃が走った。でも、仕方がないこと。受け渡すためには必要なことなんだから・・・。
「・・・・・・」
「もう、ちゃんと答えてよ!」
と言われ、ノアの両手が肩に回り、優しくノアの方に引き寄せられる。少しの間そのまま動けないでいると、静かにノアの手が外れた。
「信じてるからね、大丈夫だって」
「ノア・・・・・・」
ノアは私に体を預け、静かに眠っていた。私もそのまま眠る。
今日は夢を見なかった。最近はよく見ていたのに、今日に限って。なんか嫌な予感がしてしまうが、それを必死に振り払う。
「おはよう、ユイちゃん」
「ん、んん・・・おはよう、ノア」
「ちょっと待っててね」
というと、ノアはキャリーケースを転がして部屋を出ていく。
「大丈夫、怖くない」
と言い、私は手を握り締める。もう、覚悟は決めた。私はもう躊躇わない。
「お待たせ、準備できたよ」
「そう。ならそこに座って」
「ここ?わかった」
というと、素直にノアは私の横に座る。横に座ったノアの片手を私の片手に絡め、もう片方の手をノアの額に当てる。
「ノア、目つぶって」
「わかった」
ノアの額に当てた手に魔力を注ぐ。でもあまり注ぎすぎないように。調整をかけつつも魔力を注ぎ込み、自分でストップをかける。そして、額から手を放し、その手をもう片方の手に絡め、その状態で私の額とノアの額を重ねる。
その状態で少し。私はノアとつないでいた両方の手を放す。
「もう大丈夫」
「そう。ありがとう、ユイちゃん」
いつものようにノアは笑う。いつものようだけど、その笑顔には嬉しさがにじみ出ていて、かわいい。
その日の夜。いつものように一人の夜。だけど、少しだけ違和感を覚える夜。昨日とは違う静けさ。と、館のそばに近づく不思議な魔力を感じた。その魔力は、例えるなら火。私の蔦を燃やそうとしに来たのか。
でも、その魔力は何もするわけでもなく、庭にある一つの街灯に火をつけ、帰っていった。
その魔力が自分の蔦にいつ火をつけられるかわからないだけなのに、それが怖い。外壁にへばりついてる蔦も、すべての蔦がここに集まっている。つまり、どこかが燃やされればここに来るという事。
「まあそれなら、死んじゃってもいいのかな」
この呪いから、解き放たれることをわずかな希望として。
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