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三章 焼払いの話
『あの館、邪魔なんだよな。ちょっとなんかしてきてくれないか?』
『蔦を燃やしてくるのはどう?』
『その案いいな。ちょっと燃やしてきてくれ。そうすれば多分“彼女”は消えるはずだからな』
『分かったわ。できる限り早く済ませてきちゃいたいわね』
朝。何かが燃えるような音がした気がした。夢かもしれない。目を開けてみる。と、窓の外から炎が見えた気がした。その炎はじわじわと私の蔦を焼いていく。別に見えたわけじゃないけど、そんな感覚が蔦を伝って私に伝わってくる。と、誰かが走ってくる足音がした。
「ユイちゃん!」
「ノ・・・、ノアっ!来ないで!」
窓を通って外に出ていた蔦から、炎が入り込んでくる。私のそばまでやってきた炎は、私のスカートさえ焼いていく。
「だめ!」
「嫌だ、ユイちゃんを一人にはしないって決めたもん!」
勢いよく部屋に入ってきたノアは、私の手を掴み、腰に手をまわして立たせる。
私でさえ思っていなかったけど、今の私は立てるみたい。多分蔦が燃やされたからだろうな。ノアは、私の手をつないだまま走っていく。
「な、なにするの・・・?ノア」
「あのままだとユイちゃんが燃えちゃうもん!それに、ユイちゃんが一人になっちゃう!それに、燃やしてる日野と目的はユイちゃんを燃やすことだから、もういないの。今逃げれば、もう燃やされることはないから!」
「の、ノア・・・ッ!」
そのまま私とノアは館の外へ走り出る。確かに燃えているのはあそこだけで、ほかに延焼を防ぐようになっている。
「これで、大丈夫なんだ・・・」
下手に入っていた力が消えた。炎が見えた時は少し焦ったけど、とりあえず一安心。
と、ノアが肩に手を置く。
「ほら、歩けたでしょ?」
「うん。まさか歩けるとは思ってなかったけど・・・」
「多分また戻れるけど、どうする?」
「もう一度戻りたい。この館が私の数少ない居場所なの。だけど、ちょっと蔦を片付けたいんだけど、手伝ってくれる?またこんなことが起こらないようにしたいから」
「いいよ!やろうやろう!」
と言って、手をひきながらまた館に戻っていくノア。私は別に抵抗せずに静かに手をひかれる。私は歩きながら、背中に少し魔力を集中させ、翼を消す。なんかすっきりした。
「ここはどこから繋がってる?ちょっと長すぎるな・・・」
「えっと、ここら辺から。切るね」
「ありがとー!・・・よっ、でこうして燃やすっと」
館の中からだったけど、私とノアは蔦を片付けていく。二人で蔦を切り、集め、ノアが蔦を燃やす。あの時とは違う炎が私の蔦を燃やしていく。
「で、ここはここから繋がっているから、ここを切って。ここを切ればこっちも・・・」
絡みついた蔦をたどりながら、片手に持った鋏を動かす。切ったことで落ちてきた蔦を抱え、蔦を燃やすノアの元へ向かう。
「あ、結構な量切ってきたね。ユイちゃんは蔦触っても大丈夫なんだっけ?」
「うん。自分で生み出したのもあるし。棘は私が触ったところだけだけど消えるから」
自分で魔法をかければ棘くらい簡単に消える。だから、私がやった方がケガする可能性は低い。
「次はあっちだね」
「うん」
ノアと共に動く。このペースでいけば中は明日、明後日くらいは終わりそう。外を含めても一週間くらいで終わるだろう。
――このまま幸せな日々が続けばいいのにな。そう思うことが増えてきた。でも、そんなことは恥ずかしくて言えない。だから、静かに胸の中に閉じ込めておく。だけど、決して忘れないように。
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