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五章 成敗者の話
今日もノアはきた。いつもの通り蔦を切っていく作業を割り振る。今回から作業は外になる。南側の壁をノアが担当し、東側の壁を私が担当する。外からやってくる道が東側にあって、玄関も東側にある。
私は羽根を出して、高い所の蔦を切っていく。久しぶりに羽根を出した気がする。懐かしい感覚だな、と思う。
そんな作業に夢中になっていて、背後から近づく足音に気づかなかった。何かが飛んでくる風を感じ、慌ててよける。
その勢いでノアが決めた集め場所に蔦と鋏を置き、両手を開けておく。
両手を開けた状態で振り返る。
「誰かいるの?!」
『ようやく気付いたか。我は成敗者。其方を倒しに来た』
青いコートを羽織り、黒のズボンをはいた少年と思われる人物。手には細身の杖を持っている。
「成敗者、ね。何の目的があって私を倒そうとするのかわからないけれど、私の邪魔をするものは退けるまでよ」
『そうか。戦わない選択をしないのなら、我だって全力で当たるだけだ。仕方がないが、こいつの出力をあげる必要があるな』
といって、成敗者は勢いよく杖を投げ飛ばす。その杖は宙に浮いている状態で数回回り、成敗者の手に再び戻ってきたときには装飾のついた豪華な物に変わっていた。
『かかってこい。今ならおまえを倒せる自信がある』
「その自信、うち砕いてあげるわ。・・・、やっ!」
私は手に魔力を集め、思い描く武器を出す。その武器は、刀身が長い剣。鈍く銀色に光る刀身を構える。
『そっちは対空だ。バランスがとりずらいだろう?』
「いいえ、思っているほど大変じゃないわ。むしろ私は飛んでいる方がやりやすいもの」
私は距離を上手に取り、攻撃のタイミングをうかがう。相手もこちらの様子をうかがっているようで、一向に動こうとしない。
そうして相手の動向をうかがうこと暫く。一向に相手は動かないから、もうこっちから仕掛けるしかない。そう思って軽く魔力を集め、成敗者向かい放つ。
「っや!」
『はっ、このくらい・・・』
魔力を放ったらほとんど時間を空けずに剣を上に投げる。魔力をはじこうと杖を前に突き出し、上に隙ができる。私はその隙を狙ったのだ。私が投げた剣は成敗者の肩口を切り、蒼いコートを地面に固定する。
「ほらね、言ったとおりでしょ。もう諦めなよ」
私はとどめというように蔦を走らせ、成敗者の首に巻き付け、剣にからめる。
「ちょっとノア、来てもらえる?」
「ん?何かなー?ユイちゃん」
「この方を燃やしてほしいの。ノアって、そういうの大丈夫だっけ?」
東側の蔦処理をしているノアを呼ぶ。
「んー、別にそういうの苦じゃないんだけど、ちょっとだけでいいから蔦かぶせたほうがいいかもしれないな」
「分かったわ」
私は止めていた蔦処理を再び始める。ある程度壁の蔦をはがし、半分くらい壁が見えるようになったころ、ノアは蔦の焼却処理を始めた。
「これで大丈夫よ。ありがとう」
「別にこのくらいどうってことないよ。いつかきっとやることになるのは分かっていたし」
「そう・・・」
いつもの微笑みの中に僅かに悲しさがにじみ出ている。そりゃあ無理もない。私だって、無理を押し付けたようなものだし。
「今日はここまででいいわ。無理させちゃったわね」
「ううん、別に大丈夫だよ」
「ならいいのだけど」
蔦が燃え切ったのを確認し、ノアは火を消して立ち上がる。
「暗くなり始めてきたし、私もう帰るね」
「うん。じゃあ、ばいばい」
「じゃあね、ユイちゃん」
と言い、ノアはいつもの道を帰っていく。
成敗者に仲間はいるのだろうか。いるなら、私に復讐を仕掛けてくるか。でも、襲ってくるならすべて退けるまで。退かないのならば、処理するまで。それが、私の決めた事。
決めた事が残酷であることくらい、私は分かっている。だけど、そうすることしか、私に残された道はないのだから。
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