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六章 逃亡者の話
ノアが帰ってから。私は最後に何か落ちていないか見まわすと、そこには装飾がついた豪華な杖が落ちていた。
「あ、これ成敗者の・・・」
どうしようか迷い、私は持って館に入った。さすがにおいていくのは危険だったから。
「わあ・・・。これ使えるかな・・・」
使えたら強そうだとは思うけど。
今日はちょっと早く起きた。せっかく早く起きたんだし、ちょっと杖が使えるか試してみることにする。
「・・・、・・・・・・!」
手ごたえを感じる。もう少しだけ出力をあげれば多分・・・!
「・・・っ!いったっ!」
目を閉じて手に持った杖に魔力を注ぎ込む。と、杖が光った。
「わ、わわわ・・・!」
杖は眩しいほどの白い光を放ち、形を変えていく。手の上で杖の形が変わっていく、手をくすぐられるような不思議な感覚が手に伝わり、何とも言えない気持ちになる。
「うあ・・・!」
出来上がった杖の形を見て、あっけにとられている所。
「ユイちゃーん!ちょっと助けて!」
「の、ノア・・・?」
こんな状態をみられるのも難だけど、あわてて門のところに向かう。
「ユイちゃん・・・、どうすればいいのかな・・・?!」
ノアの後ろには、一人の少女。それも怯えて、ノアの足にしがみ付いている状態で。
「状況を話してもらえる・・・・?」
「分かった。でもさすがに、ここじゃちょっと・・・」
「そ、そうね。私の部屋でいい?」
「うん、大丈夫」
そして私たちは移動した。定位置であるベッドに座る私の隣に、その少女を座らせる。
「ねえ、彼方。名前は分かる?」
「わ、私は・・・シノ。灯環シノ」
「シノ、っていうのね。私はユイ、こっちがノア。よろしく」
「シノちゃん、よろしくね!」
少し緊張が解けたみたい。ちょっとだけリラックスしたように見える。
「シノちゃん、どうしてあそこにいたの?何かあった?」
「私、お兄ちゃんと暮らしてたの。だけど、今日ね、知らない人が、私たちを倒そうとしてきたの。だから逃げてたらここについたの。疲れてたからあそこで座ってた」
あまり表には感情を出さないけど、きっとつらいことだろう。聞いているこっちだって辛い。私は、シノを抱きしめ、頭を撫でる。
「そう・・・。お兄ちゃんは、シノちゃんがいる場所分かるの?」
「多分、お兄ちゃんは“特別な力”があるから私の場所がわかるって言ってた。だから、多分来るよ」
多分、“特別な力”は魔術で、シノのお兄さんは魔術師なんだろう。私やノアと同じような。
「ノア。シノのお兄さんが来るまで私が預かっていようか?」
「え、大丈夫?」
「私は別に大丈夫だけど、シノは大丈夫?」
「うん、ユイお姉ちゃんとなら一緒にいれる」
「心配だなぁ・・・。じゃあシノちゃんのお兄さんが来るまでは私も残るよ。お兄さんにあいさつしたいし」
という事で、私とノアはシノと共にシノのお兄さんを待つことになった。
「ねえ、シノちゃん。シノちゃんは“特別な力”、持ってるの?」
「う、うん。あまり使えないけど、ちょっとだけなら使えるよ。ノアお姉ちゃんやユイお姉ちゃんも使えるの?」
「うん、そうだよ。私はユイちゃんから“特別な力”をもらったの」
そうやって何気ないような話をしていたところ、館の敷地内に入ってくる魔力を感じた。その魔力はドアを開けて館の中に入ってくる。
「シノのお兄さん、来たかもしれない。魔力を感じる。多分そろそろ来る」
「え、本当!?お兄ちゃんのところ、行っていい?!」
「それなら、この廊下をまっすぐ行ったところに階段があるの。その前で待ってたらいいわ」
「ありがとう、ユイお姉ちゃん!」
と言いながら、シノは走っていく。それを私とノアで見守る形。と、階段を上がってくる一人の青年が現れる。その子がシノのお兄さんみたいで、シノが飛びついている。
抱きついてきたシノを抱きながら、こっちに歩いてくるお兄さん。
「初めまして、あなた方がシノを保護してくれたんですよね?」
「あ、はい。そうです。初めまして、私はユイ、こちらがノアです」
「僕はシアです。ユイさん、ノアさん。よろしくお願いしますね」
どうやらシアさんは私とノアがシノと触れ合うことに問題を抱いていないみたい。茨の魔女ってことに気づいていないのかな。ならそれでいいけど。
できるなら、シアさんとシノに協力してもらって、4人で成敗者の仲間が来た時に対応できるようにしたいと思うけど。
と、新たに近づく魔力を感じた。この魔力は、成敗者の物に似ている。ほとんど同じと言ってもおかしくない。まだ敷地には来ていないけど、わずかな波長を感じた。
「何か、来た。多分、前回の仕返しだと思う。ごめんなさい、シアさん。ちょっと協力してくれませんか?」
「確かに何者かが近づいてきていますね。いいでしょう、ユイさん。シノ、行けるかい?」
「うん、一応大丈夫だよ、お兄ちゃん!」
「ならよしだ。無理はしないでくれよ。では、下で迎え撃ちましょうか」
「そうですね、移動しましょう」
私たちは一階へ移動する。これで、成敗者たちとの戦いを終わらせる。私はそう決めた。
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