第四章 忘れる夢のファンタジア

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◇  十一月に入ると、次第に空気は冬の冷たさを帯びるようになった。  もう今年も終わるんだな、なんて当たり前にいつも思うことを反芻する。 (唯人くんにフラれたら、私はもっとずっと、へこむんだと思ってた)  意外にも大丈夫でいられることが不思議だった。  梨沙は、高台の公園に唯人のことを呼びだした。  その場所で告白して、フラれた。あれからもうすぐ一カ月経つ。 『梨沙ちゃんがいてくれて、よかった』  唯人はハッキリそう告げた。  好きになってくれてありがとう、とも。  その言葉を思いだすと、今も胸が締めつけられる。 (それだけだったはずなのに)  なぜか、もっと大切なことを唯人と話したような気がした。  それが何かは、分からない。  もっと他のこと――伝えなきゃって思ったことが何かあったような気がする。でも、その記憶も日を追うごとに薄れていった。  今はまだ胸の奥底に、失恋の痛みだけがある。  あれから――登校する前や下校途中、唯人の姿を見かけると、 「おはよう」って声をかけられるようになっていた。  どうして前はあんなにも躊躇していたんだろう。  梨沙はずっと唯人に避けられているような気がしていた。  ふたりとも手の届かない彼方に行ってしまったような、寂しさだけが渦巻いていた。今もその事実は変わっていないはずだった。莉愛は一年ほど前、天国へ旅立ってしまったし、唯人にもフラれたのだから。  でも、 「おはよう、梨沙ちゃん」  そう応える唯人の顔は、以前よりほんの少しだけ優しくなったような気がする。  簡単に嫌いになんてなれない。  今も、その表情を見るたび目が吸い寄せられてしまう。  ずっとずっと惹かれてやまなかった初恋のひと。  この恋の終わりをまだ、引き伸ばしていたかった。いつかちゃんと自分であきらめられる日がくるまで。  同じ高校に入学する目標もいまだ変わらない。もうしばらくは受験だけに集中する日々だろう。長い冬を越え、春になったら、ほんの少しだけ成長した自分に会えるのかもしれない。  莉愛の果たせなかった夢を、未来を繋いでいくために。 「あのね、唯人くん、今度勉強教えてくれないかな」  こうやって話しかけるのも、前ほど緊張しなくなった。  それが今は、少しさみしい。  もちろん、と言う声に梨沙は思わず微笑んだ。
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