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(不思議な夢だったな……)
重い頭を抱えながら、ベッドで唯人は目を覚ました。
夜、散歩していたら、教会にいる天使を見つけた夢。外出したことは覚えていた。あれからどうやって家に帰ったかは記憶にない。唯人は夢だと決めつけた。そうでなければ何だというんだろう。
誰もいない部屋のなかで、のろのろと起きあがる。
カーテンの隙間から強い朝日がまっすぐ差している。九月になっても、太陽は容赦なく世界を照らしだす。
『無理して学校に行かなくてもいい』
以前、父親にそう言われた。
早くに母親を亡くしたせいか、父親は基本的に好きなようにさせてくれた。だが、その一方で見放されているようにも感じた。
いてもいなくてもかまわないような。何も期待していないような。
むろん、そんなことないのだろう。それは唯人のひねくれた見方にすぎないのだろうと。実際父親は穏やかで、唯人を叱ることはなかった。それなのに、物足りなさを感じてしまうのはなぜだろう。自分さえも、自分を必要としていないのに。それにも関わらず、唯人は誰かに必要とされたかった。
たとえ、それがこの先叶わない望みなのだとしても。
莉愛を失ったあの日、唯人の心の半分はどこかへ消えてしまったのだ。
(だから、あんな夢を見たんだろう)
自嘲的にそう思う。どうかしているとしか思えなかった。
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