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台所にあるもので適当に朝食を済ませる。
母親がいなくなってから、調理は自分でするようになった。でも、食欲はあまりない。十代の高校生としては健全じゃないなと思いつつ、ボウルに卵をかきまぜるとフライパンに流しこむ。シリアルとスクランブルエッグの簡単な朝食を咀嚼する。
「行ってきます」
律儀につぶやいて、ドアを開ける。
ほんの少しだけ頬をなぜる風に冷気が混ざっていた。季節は前へ進んでいく。自分だけがずっと置き去りにされている気持ちだった。莉愛を失って一年になる事実が胸に迫る。
彼女に「おはよう」と言われることも、「またね」と別れることもない。ずっと続いた日常は、ある日突然断ち切られた。莉愛の面影が浮かぶたび、しゃがみこみたくなるような息苦しさにおそわれた。
莉愛は、幼馴染みだった。家が近所でそばにいて、小学校も中学も一緒で、ずっとこの先も隣にいられるんだと思っていた。それは当たり前のように続く未来になるはずだった。
(一年前の九月。僕のせいで死ぬまでは)
学校にまっすぐ行く気がしない。そんな日はいつも寄り道をした。
心のなかの後悔があふれそうになるたびに、唯人はあてどなく散歩した。
電車を乗り継いで、どこか遠くの街に行ってしまいたかった。
でも、どこに行っても空洞は消えないと知っていた。すべての感情は彼方にあって、抜け殻のように思える重たい体を抱えたまま、自分を手放したいと思った。
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