0人が本棚に入れています
本棚に追加
向かうのは、教会の墓地だった。
昨日の夜、訪れた場所をもう一度見たいと思ったのだ。
そもそもあれは、本当に夢だったのだろうか?
昨日の夜、ひとりで家を出たことは覚えていた。そして、教会の十字架の上に佇む天使を見かけた。見間違いとは思えなかった。まるで、莉愛が天使になって会いに来てくれたような……
そこまで考えて自嘲する。そんなことが起こるはずがない。
墓地は教会の裏手にあった。整然と並んだ灰色の墓石。そのなかに莉愛は眠っている。唯人はときどき、ひとりでここを訪れた。
どんな言葉も届かない。たとえそう知っていても。
少しでも莉愛に近づける気がして、そうせずにはいられなかった。
道路わきに咲いていたピンクのコスモスを抜きとると、墓前に供えようと決める。アルバイト経験のない唯人は、父親のお金で高価な花を買う気にはなれなかった。それとも、働けば空虚さも少しは薄まるのだろうか。でも、大人になる自分の想像なんてできなかった。
莉愛は永遠に十五歳のままだ。
(あの日――僕は永久に、莉愛の未来を消したんだ)
その彼女を置き去りにして、自分だけ成長することが耐えがたく苦痛なことに思えた。
(もう、自分の誕生日を祝う資格なんてない)
唯人は莉愛が死んでから、ずっとそう思っていた。思いつめた先の闇が、唯一の救いに思えるほど。
最初のコメントを投稿しよう!