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(きのうが、莉愛の命日だった)
だから唯人はきのうの夜、ひとりで教会に行ったのだ。
ずっと消えない後悔を胸に刻みこむために。
たったひとつだけ心に宿した誓いを果たすために。
ふいに、唯人は人の気配を感じて立ちどまった。
平日の午前中に誰かいるのはめずらしい。今までこの場所で他者とすれ違うことも稀だった。見ると、そのひとは白いワンピースを身にまとっていた。唯人は奇妙な既視感を覚える。
「君は……」
かろうじて、それだけを口にする。
墓地に佇んでいたのは、夢で教会の十字架に座っていた『天使』だった。
唯人は目にしているものが信じられなかった。初対面の女の子を凝視している現状に気づくまでに数秒かかった。
――と、きのうとは違う点に気づく。彼女には羽が生えていない。昨夜、夢に出てきた子とそっくりではあるけれど。
さまざまな思いが入り乱れて、唯人は次にどんな言葉を発すればいいか分からなかった。彼女は不思議そうに、唯人のことを見返した。彼女に見られている事実に、意識が遠のきそうになる。
「君もお墓参り?」
かろうじてそう尋ねると、コクンと彼女はうなずいた。
ずいぶん無口な女の子だ。
いや、彼女は話しかけられたことに困惑しているだけかもしれない。普通、墓地で一緒になっても話をすることなんてない。
年輩の人ならともかく、自意識の塊みたいな高校生なのだから。もしかして新手のナンパだと思われてないといいな、と思う。
見れば、彼女も唯人とそんなに変わらない年齢に見えた。
そして――夢で見た『天使』と同じように莉愛に似ていた。
「私は、ミハネ」
いきなり彼女はそう言った。
唯人が尋ねるより前に。
運命的な出会いを、まるで予見するように。
よろしくね、と彼女は言わなかったけれど、彼女が名乗ったことで決定的な意味が生まれた。
彼女が何者だったのか、唯人は最後に知ることになる。
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