第四章 忘れる夢のファンタジア

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   羽がなくなれば、どこにも行けない。  私は、仕方なく彼について行くことにした。  どうして影響を受けたのか、その理由を知りたかった。 「なんで僕についてくるの」  彼は、私にそう聞いた。  今のところ私の姿が見えるのは、この男の子だけだった。 「あなたに私が見えているから」 「何しに来たの?」  尋ねられて、言葉につまる。  とっさに答えが浮かばない。 (何を――しに来たんだろう)  何かをしようと思って、地上に降りてきたわけじゃなかった。  ただ、無視できない叫び声を聞いたのだ。  でも、そのすべてをうまく説明できなくて、 「羽を取り戻したいんです」  仕方なく、私はそう言った。  それ以外にどう応えればいいか分からなかった。  しばらくして彼は、私を『天使』だと認めてくれた。 『ミハネ』という名前の天使。  彼からすれば、私はとても不可解な存在なのだろう。  自分でもそれ以上のことは、思いだすことができなかった。  羽が見つかるまでは、彼のそばにいるしかない。  そう覚悟を決めた瞬間、もうひとつ意識の表層に浮かんでくる名前があった。  それは、『彼』の名前だった。  私のなかの誰かが、それを教えてくれたのだ。 「よろしくお願いします。唯人さん」  私がそう告げると、彼は驚いた顔をした。 《高瀬唯人》  それが、地上の彼の名前。  そのできごとをきっかけに、私は自分のなかに『もうひとりの私』が存在していることを知った。その《私》が提案したのだ。  彼がやりたいことをして、幸せを感じることができれば、羽が戻るかもしれない――と。  私は、その声に従った。  とてもいい案だと思った。  彼の感情が『私』に影響を及ぼしているのなら、彼が幸せになることで飛ぶことができるかもしれない、と。
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