第四章 忘れる夢のファンタジア

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  ――せっかく思いだせたのに。彼の声を聞いたのに。  《彼女》がそう言うのが分かって、そのときにはもう、『私』でいられなくなるギリギリの淵に立っていた。  羽は戻りかけていた。  夜になると現れる羽は――私が夜にしか飛べない天使になることを示唆していた。  つまり、タナトスになることを。  彼にいつまでも終わらない夢を見せてしまうことを。 (そんなこと、できるはずがない)  そう思う『私』と、 (いつまでも隣にいたい)  そう願う《彼女》が混ざりあって、どちらの私にもなれなかった。  大切だったのだ、とても。  見過ごすことができないくらい。  感情はなくしたはずなのに、心を揺さぶられるくらい。  一緒に泣いてしまいたいくらい。  それくらい、彼が好きだった。  とても無視できなかった。  彼が心の底から、叫んだって分かったから。  最後の最後になって、そのときのことが鮮明に思い浮かぶようだった。  とても大切だったから、守りたいと思ったことも。 (――でも)  とても愛しいひとだから、もう忘れなければいけない。 (また、『天使』に戻るために) 「――ミハネ!」  海辺に声がこだまする。  どこまでも続く静寂を切り裂くような声だった。 「莉愛! お願いだ、このまま消えないでくれ。これが、本当に最後だから」  そうつぶやかれた声が風にまぎれる寸前に――その声に呼び覚まされるように、『私』から《莉愛》が現れた。
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