第四章 忘れる夢のファンタジア

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*  彼の声を聴いたとき、 《私》のなかの何かがはじけた。  ずっと、また会いたかった。  たとえ世界に見はなされても、  悪魔になってしまっても、  本当の「幸せ」から遠ざかってしまっても、  彼の願望は全部、 《私》が叶えてあげたかった。  本当は「人間だった」記憶は、消えていくはずだったのに。  それでも、《私》は彼を見つけた。  彼に心の底から、呼ばれたって分かったから。  ――ごめんなさい。最後だけ、 《私》が姿を見せるのをゆるして。 ◆ 「――莉、愛……?」  名前を呼んだ瞬間、さっきまでいなかった女の子がすぐ目の前に現れた。  波の音が遠くなる。  東の空の底の方が、どんどん明るさを増していた。 《彼女》は――唯人を見つめると、泣きだしそうな顔をした。 「――唯人……」  それは、一瞬にも満たないようなわずかな時間だった。  視線が交わったかと思うと、白い一対の羽が彼女の背に現れた。  今まで見たなかで一番、綺麗で透明な白い羽。 (飛んでいってしまうんだ)  直観的に、そう分かった。  そうできるということは、《彼女》はきっと『天使』に戻ることができたんだろう。  本来なら、それを喜ばなければいけないのに。 「本当は、私も唯人と一緒にいたかった」  そう告げる声が聴こえてくる。 (でも、その想いが彼女を戻れなくさせるなら、僕は新しい決意を胸に刻まないといけない)  たとえ、そう分かっていても。 (ずっと一緒にいることを、僕は望んでしまったんだ)  そしてまったく同じことを、きっと莉愛も望んでいた。  直後、彼女は泣きそうな顔のままで微笑んだ。  見えない火花が散るように、目のなかの光が交錯する。最後の瞬間、莉愛は言った。 「ちゃんと最後まで生きて。おじいちゃんになって寿命がきたら、今度は唯人から会いに来て」  それが彼女に託された、本当の願いだって分かって、  苦しかった。とても。  胸がはりさけそうだった。  でも、 (今、どうしても彼女に伝えなきゃいけない言葉があるんだ) 「会いに来てくれて、ありがとう」  ただ、それだけを言いたかった。  そのために、ここまで走ってきた。  最初の朝日が東から差して、夜の闇を切り拓く。
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