第四章 忘れる夢のファンタジア

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◆  ――しばらく家にいられると思う。  そう言っていた言葉通りに、父親は家のなかで仕事することが多くなった。   会社に事情を話して、出勤しなくてもいいように引継ぎを色々済ませて仕事を整備したらしい。  今さらという気もしたし、唯人としては家にひとりでいられる方がかえって気楽に思えたけれど。ひとつ良いことがあるとすれば、やる家事が減ったことだろうか。洗濯物や食器洗いは慣れたことではあるとはいえ、やっぱり面倒だったから。 誕生日当日――唯人は、教会へ行くことにした。  それは莉愛が死んでから、ずっと変わらない習慣だった。そこに行けば、また彼女に会えるような気がしたから。だから、身の内に巣食う暗闇に呑みこまれそうになるたびに、唯人は墓地へ行ったのだ。 (それなのに、どうしてだろう)  あの日(﹅﹅﹅)から、その傷痕が膿を出さなくなった気がする。  ずっと消えないと思っていたのに。  後悔は耐えずふくれあがって、いずれは唯人自身を消してしまうと思っていたのに。 『薬の効果かな』  父親はそう言って喜んだ。 (そうかもしれない。けれど)  それだけではない気がした。  なぜだろう。  唯人は――とても幸福な夢を見ていた気がするのだ。 (ずっと()めないでほしい)  心からそう願うほど。  泣きたくなってしまうほど。  実際に朝目覚めたら、涙が熱く頬を伝っていることもあった。  その夢のなかで唯人は、「見えない天使」と一緒にいる。  彼女は莉愛にそっくりで、唯人は世界じゅうどこでも彼女と旅することができる。  彼女はもう、地上のどこを探してもいないけど――でも、確かにいることは唯人だけが知っている。  そして、最後に約束するのだ。 『おじいちゃんになって寿命がきたら、必ず君に会いに行く』と。  終わらない夢の甘い余韻を胸に感じるたび、唯人は胸に空いた穴が徐々にふさがっていくのを感じた。 (ただの夢にすぎないのに)  頭ではそう思っても、感情はそれを否定した。  ――つまり、それはきっと実際に起こったことなのだと。
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