第四章 忘れる夢のファンタジア

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   たとえ覚えていなくても、唯人は莉愛が天国から会いに来てくれたような、見守られているような、そんな気持ちがしてしまう。  ずいぶんおめでたい話だと思う。 (この感覚は、きっと誰にも説明できやしない)  唯人は歩きながら、太陽に手を透かしてみる。  なぜか、この手を《誰か》と繋いでいたような気がする。  それが莉愛であるはずがない。記憶のなかで唯人は、手を繋げなかったから。それはハッキリしているのに。 (どうして一緒に散歩をしていた気がするんだろう)  ふたりで手を繋いで。  どこまでも続く空の下を歩いたような気がするんだろう。  それもよく見る夢の影響かもしれなかった。  それが、もしも全部薬のせい(﹅﹅﹅﹅)なのだとしたら、たいした効果だな、と思う。  スマホの液晶画面を見る。  十一月二十日。 (この日が、本当は最後の一日になるはずだったのに)  夢で交わした約束が熱を帯びているせいか、自殺する気になれなかった。 (不思議だ。莉愛がいなくて、とても寂しいのは同じなのに)  時に洗い流されて、悲しみは少しずつ摩耗して、今日も明日もずっと、生きていけたらと思うなんて。 (そう思わせてくれた、《誰か》がきっといるはずなんだ)  ――そのひとの名前ももう、僕は覚えていないけど。  夢のなかでときどき、唯人は名前を呼んでいる。  それは夢のなかでしか、告げられない名前だった。  彼女は唯人のかたわらで、嬉しそうに「はい」と微笑む。  そのとき胸に広がる波紋だけを覚えていた。
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