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10
玄関のドアを開けてまず目に入るのは、廊下の壁に沿って積み上がった段ボール箱だった。引っ越し業者のロゴマークが入った箱の山を、育人がちらりと見上げた。
「散らかっとってごめんな」
「あ、いえ……」
誠志は育人をリビングへ通し、「適当に座って」と促した。ダイニングの椅子にジャケットを引っ掛けて、冷蔵庫を開けた。独り暮らしの冷蔵庫には発泡酒が一缶しかなく、誠志はコップを二つ取り出した。
リビングでは、育人がソファの近くに立ったまま、空き部屋のドアを不思議そうに見ていた。出入りがなくなった怜子の部屋は、空気がこもらないようにドアを開けっぱなしにしてあった。
「そこ、怜子さんの部屋やってん」
コーヒーテーブルに缶とコップを置いて、誠志がソファに座った。隣の席をぽんぽんと叩いてみせると、育人が近づいてきて「失礼します」と腰を下ろした。
コップに注いだ発泡酒で乾杯してからも、育人はまだ部屋の方を気にしていた。誠志は「俺の部屋はそっち」と、空き部屋の隣のドアを指さした。
「気になる?」
「えっ……あ、そのっ」
誠志が笑うと、育人はたちまち赤くなった。
「そ、その……部屋、別々だったんですね」
口ごもる育人の横顔に色気のようなものを感じて、誠志は小さく息をのんだ。育人の唇がコップのふちにつき、ふにゅ、と頼りなく形を変えた。その唇にふれたい衝動を、抑える必要はもうない。そう自覚した瞬間、誠志はぐらぐら煮え立つような興奮を覚えた。
衝動のままに唇を重ねると、育人が大きく目を見開いた。まさしさん、と戸惑う声ごと育人の吐息を吸い上げて、柔らかな唇を味わった。
はじめに下唇を甘噛みし、舌先でぬるりとたどった。そのまま口角から舌をすべり込ませて、上唇の裏側を丹念に舐めていく。つるりとした前歯をひとつずつ舌先でつついていたら、尖った犬歯に行き着いた。育人が口でしてくれたとき、そこが誠志のペニスに当たったことはなかった。誠志に痛い思いをさせぬよう気遣ってくれたのかと思うと、いとおしさが募った。
かわいい八重歯をしばらく舐めていたら、育人が誠志のワイシャツをぎゅっと握った。一旦唇を離すと、育人のつり目がまどろむようにゆるみ、恍惚と誠志を見つめた。
「も……まさしさん、そこばっか……」
「ハハッ、ごめん。つい」
キスに濡れた唇を軽くついばみ、誠志がくちうつしで謝った。ままごとのようなキスで気を引くあいだ、さりげなさを装い、育人の内腿に手のひらをすべらせた。手の甲をかすめた熱を追おうと、誠志はさらに手を伸ばしたが、育人が弾かれたように席を立った。
「あ、あのっ!」
「ごめん、嫌やった?」
育人の顔に嫌悪の色はうかがえなかったが、誠志は念のため聞いてみた。案の定、育人は「そうじゃなくて」と即座に否定した。
「シャワー、使わせてもらえませんか?」
遠慮がちに乞われ、誠志は自分の配慮の至らなさを恥じた。こうしたやりとりは久々で、すっかり勝手を忘れていた。
「もちろん。そこの奥やから。タオルとかも好きに使てな。あ、せや」
誠志は自分の部屋からスウェットの上下を持ってきた。部屋着にしようと買ったものの思ったよりサイズが小さく、新品のまま放置していたものだ。引っ越しを機に処分しようと思い、たまたま出してあった。
「これ、よかったら」
誠志が差し出したスウェットを、育人は嬉しそうに受け取った。
上がってきた育人と交代で浴室に入り、誠志は熱いシャワーに身を打たせた。育人との情事ならさんざん妄想してきたが、いざ現実になると、誠志の胸に一抹の不安がよぎった。
セックス自体久しぶりだが、同性相手となると、最後にしたのは数年前だ。同性ならではの手順があったように思うが、シャワーすら失念する始末では甚だ心もとなかった。
だが、誠志のそんな懸念は、自室へ戻るなり霧散した。誠志のシングルベッドに育人が横たわり、枕に顔を埋めていた。
「……なに、かわええコトしとるん?」
誠志はベッドに近寄って、端に腰を下ろした。手ざわりの良い髪を手ぐしで梳いても、育人は顔を上げなかった。外耳の少し尖ったところにキスすると、年下のかわいい男は肩を跳ねさせて身じろいだ。
「気に……気に、なってました。ご夫婦の寝室――」
誠志に耳元をついばまれながら、育人がささやいた。
「大きなベッドで……誠志さんの、となりにいるのは、奥様じゃなくて……僕だって妄想して、じ……自分で、したりとか」
か細い声の述懐は、「ごめんなさい」と謝罪で終わった。端正な顔が少しずつ誠志の方を向き、あらわになった瞳が誠志の胸を衝いた。恥じらいと疚しさを色濃く映しつつも、抱かれることへの期待を隠し切れないまなざしが、誠志の下肢にどろりと粘る熱を注いだ。
「かわええなあ、育人くん」
育人の耳たぶから頬、口元へと唇でたどり、誠志がベッドに乗り上げた。横臥する育人に背中からぴったり寄り添って、スウェットの裾から利き手を差し入れた。
薄い脇腹をゆっくり撫で上げる傍ら、うなじに淡いキスを繰り返す。誠志の指が育人のなだらかな胸を渡り、小さな粒にたどりついた。乳輪のふんわり甘い弾力ごと、乳頭を指の腹で押し撫でると、育人が「ひゃっ」と高い声を上げた。
誠志は育人の鎖骨まで下った唇を、再び耳元にあてがった。尖ったところを甘噛みしつつ、右手の人差し指と親指で乳首をつまんだ。乳輪のふちに指の腹を添えて、乳頭に向かってしごき上げる愛撫は、あたかも搾乳だった。育人は乳汁の代わりに、甘ったるい嬌声をとめどなく漏らした。
「あっ……は、はぅん……っく……」
「ここで感じるちゅうことは、初めてやないんやね」
育人の耳の裏に唇を押し当てて、誠志が低い声を響かせた。育人が嬌声のあわいに「すみません」と謝り、誠志は唇を育人の頬に移した。
「ええよ、謝ることちゃうし――ま、妬けるは妬けるけど」
引きつづき育人の乳首を弄りつつ、誠志は空いた手を下に伸ばした。スウェットパンツのウエストに手を潜らせて、足の付け根を指先でそろりとくすぐった。直接ふれるまでもなく、すぐそばで育人のものが頭をもたげる気配があった。嬌声はますます淫らにとろけて、誠志の鼓膜から身体の芯へと甘い疼きを走らせた。
「乳首、好きなん?」
からかい交じりに聞くと、育人は真っ赤になって顔を逸らした。再び枕に埋もれてしまった顔が見たくて、誠志は「ごめんごめん」と育人の肩をやんわり揺すった。仰向けになった育人に覆いかぶさり、なめらかな額にくちづけた。
「かわいがったらんとな」
育人が幼げに拗ねて尖らせた唇は通り過ぎ、誠志は育人の熟しはじめた右乳首に唇を着地させた。
「あッ……!」
あいさつ代わりにチュッと吸い上げると、育人がビクンと背筋をしならせた。軽く突き出された胸の、もう片方の粒に右手を伸ばした。まだ柔らかい乳頭に誠志の指先がかすめただけで、育人が切なげに喉を鳴らした。性能の良い楽器さながら、誠志の一挙一動から敏感に快感を拾う痩躯をまさぐるのは楽しかった。
熟して張り詰めた右側の乳頭を舌の表面で転がすと、こりこりと芯を持った感触がつたわった。軽く吸い出して付け根を甘噛みし、そのまま突起の先端を舌先で擦り撫でる。一瞬だけきつく噛み、すぐに解放して、噛んだところをゆるやかに舐め回す。乳輪全体を唇に含んで、強く、弱く、また強くと、気ままに吸啜する。
右を存分に味わうあいだ、誠志は育人の左乳首も同じだけの執拗さで弄り回した。右の愛撫のリズムに合わせて、利き手でつまんだり弾いたり、ぐりぐり撫で回したり――。そうするうちに、左側もツンと勃ち上がって卑猥なたたずまいを呈した。
「ひぁ、ああん、ふぁ……も、やっ……ン」
弱点をしつこくいじめられて、育人はだらしなく喘ぎつづけた。
誠志がようやく解放した右乳首は、真っ赤に濡れ光っていた。表面の薄い皮膚が誠志の唾液でふやけ切り、外気にふれただけでピクンとふるえた。軽く息を吹き掛けてやると、育人が「ひィン」とひときわ甘く叫んだ。そのとき、しっとり濡れて熱を帯びたものが誠志の腹をかすめた。まるで粗相でもしたように、透明なカウパーでびしょびしょになった育人のペニスだった。まだ完勃ちには至らず、半分ほど捲れ上がった包皮から、濃いピンク色の亀頭が顔をのぞかせていた。
誠志はやおら身を起こし、育人の陰部に顔を寄せた。それまで恍惚と快感に身を任せていた育人がはたと我に返り、「すみません」と両手で顔を覆った。
「みっともないですよね、そんなの……」
しきりに縮こまる育人を、誠志が「なんで?」とたしなめた。
「俺は好きやよ。だって、ほら――」
尖らせた舌先で亀頭と包皮のあいだに割り入り、包皮の裏側をくるんとカリに沿って舐め回した。育人のそこはすみずみまで洗浄されて、ほのかに石鹸の匂いがした。先ほどシャワーをねだった一番の理由はこれかと、誠志は遅ればせながら微笑ましく思った。
誠志の舌遣いに合わせて包皮がスルリとめくれ、カリ首に行儀よく丸まった。普段包皮に守られているぶん刺激にことさら弱いらしく、露出した亀頭に誠志がしゃぶりつくと、育人は「ひあああッ」と鋭い悲鳴を上げた。
「あッ、あんッ、まさしさ……っン、だめえっ」
腰からつまさきまでピンと反らせて、育人が悶絶した。しかし誠志はビクビク跳ねる育人の腰を両手でがっちり固定して、唇と舌で敏感な亀頭を甘やかした。
「かわええやん……感じ易うて。いっぱい気持ちようしたるからな」
先端を咥えたまま言い含めて、誠志は育人のペニスを根元までのみ込んだ。先走りに濡れた下生えが鼻先にふれて、若く青い香りが誠志の鼻腔に満ちた。懐かしい匂いと苦みが、誠志の性感をダイレクトに刺激した。頭上から降り注ぐ甘い声も相まって、育人にほどこした歓びがそのままフィードバックされるかのような錯覚に陥った。採精室で誠志のものを咥えながら勃起していた育人の姿が思い出されて、感慨深かった。
「やっ、あっあっ、はぁあん……フェラは、フェラはだめです……ぅ」
誠志の髪に両手を埋めて、育人が身も世もなく喘いだ。誠志は口腔に閉じ込めたまま舐め回していた竿をちゅぽんと吐き出して、根元にそっと手を添えた。
「育人くんにしてもろたの、めちゃめちゃ気持ちよかったから、お返しや」
屹立をハーモニカよろしく唇ですり立てながら、誠志が言った。過ぎる快感に曇りがちだった育人の瞳に光が戻り、「あ、あれはっ」と弁解をこころみた。
「『治療』やろ? わかっとるがな。クリニックでフェラなんて、育人くんはそんなやらしいマネようせんもんな?」
熟れ切ってピクピク脈打つ勃起のあちこちにキスを落としながら、誠志がやに下がった笑みを浮かべた。
「――でも、俺はやらしいオッサンやから、育人くんにしてもろたのオカズにめちゃくちゃ抜いたわ。堪忍してな?」
育人本人へ詫びる代わりに、分身の先端にくちづけた。その瞬間、育人の腰がひときわ大きく跳ねた。
「あっ、あ、はあああー……ッ!」
ビクンビクンと腰をふるわせて、育人が熱をほとばしらせた。誠志がかろうじて口腔に導いた吐精は思いのほか濃厚で、ぷるぷるとゼリーのようなのど越しだった。
「あん、あんっ、やああっ、ご、ごめん、ごめんなさっ……いいッ……」
育人の甘く粘る嬌声に聞き入りながら、誠志は育人が放った最後のひとしずくまで飲み下した。さらに尿道の残滓まで吸い出してやると、もはや前後不覚の育人が「やん、やあんっ」とすすり泣いた。
「ハハッ、めっちゃ出た……気持ちよかった?」
ぺろりと舌なめずりをして、誠志が聞いた。育人はもうろうとしつつも、律儀に「ふぁい」とうなずいた。
達したばかりの身体は、どこをとっても敏感なようだった。誠志が育人の両膝を裏から掴むと、育人はそれだけで「あっ、あっ」とはしたなく鳴いた。誠志は掴んだ膝を抱えて、股を大きく開かせた。卑猥なM字を描く両足のまんなかで、ささやかな窄まりがヒクリとふるえた。
「育人くん、こっちは使たことある?」
アヌスを舌でつつきながら、誠志が聞いた。不意打ちに育人は「ひゃああ!」と悲鳴を上げたが、取り乱しつつも質問に答えた。
「あ、あの……はい……でもそんなに、慣れてはなくて……」
育人が言いよどみ、不安げに視線をさまよわせた。誠志自身、経験値はともあれブランクの長さが若干不安だった。やめとこか、と言葉を継ぎかけたところで、育人が「でも」と口を開いた。
「誠志さんと、したい――最後まで、して欲しいです」
育人の双眸が、凛とした光を湛えて誠志を捉えた。
生殖の意義を持たない同性との性交渉で、アナルセックスは必ずしも「最後」と位置づけられるものではない。純粋な交歓としてならば、ときに苦痛をともなうそれは、「最後」どころか回避すべき行為だ。
誠志に「最後」まで求める育人はきっと、セックスの真価を知っている。自分もそれを知りたいと、誠志は腹をくくった。
「よっしゃ。ユルユルなるまでほぐしたるわ」
誠志がニッと笑って言った。まっすぐ引き結ばれていた育人の唇が微笑のかたちに弛緩して、「おねがいします」と恥じらいながらもささやいた。
楚々とつぼんだ穴の表面を、まずは舌のへらで舐め上げた。アヌスと会陰を行き来していたら、はじめは張り詰めていた辺縁がだんだん温もって、わずかにゆるむ気配があった。
「んっ……ふ……」
「育人くん、力抜いて……なっ?」
育人はコクコクうなずいたが、裏腹にアヌスはキュッと締まり、誠志は苦笑した。周縁の細かなしわを押し広げるように、尖らせた舌先で丹念にねぶった。窄まりの中心から外側へと舌先で往復するうちに、舌先が穴に吸い込まれるようになった。最初はほんの数ミリだったが、丁寧に時間をかけてほぐしていくと、やがて舌の半ばまで隘路に埋もれた。
「ううん……っ、は、ふぅ……」
誠志の舌を半分のみ込んだまま、育人が切なげに腰を揺らした。そのタイミングで誠志が舌を押し込むと、無事に舌根までもぐり込めた。誠志は舌をそこに留めて、上下左右を舐め回した。
「あっ、あ……あっ……ッあ!」
舌をスクリューのように動かしていたら、先端が浅いところの一点をかすめた。その瞬間、育人の声が裏返った。前立腺だ。舌先でつつくと、しなやかな弾力で押し戻された。ようやく勘が戻ってきて、誠志はそこをじっくりと育てていった。
ささやかなふくらみを繰り返し突いていたら、あわや舌が攣りかけた。一旦引き抜くと、誠志の目の前で小さな穴がふんわりゆるみ、とろりとよだれを垂らした。自分の唾液とわかっていても、濡れそぼったアヌスに劣情を誘われて、誠志はそこに唇を押し当てた。
「ふぁ、ふぁああアッ!」
はしたなくとろけた顔で、育人が喉を反らせて喘いだ。誠志の頬のすぐそばをピュッと透明なしぶきがかすめて、誠志は一瞬呆気にとられた。育人のペニスは、はち切れそうに屹立したまま、断続的に潮を吹いていた。
あまりに淫らな光景に、誠志はめまいすら覚えた。狂暴な衝動をかろうじて堪え、「ハハッ」と乾いた笑いでごまかした。
「やらしなあ、育人くん」
平静を装う誠志を育人がキッとにらんだが、快感に乱れ切った面差しでは、甘え媚びるのと変わらなかった。
「も、やあっ……おればっかり……おれにも、させてください……っ」
はあはあと荒い息をつきながら、育人が誠志の肩に手を掛けた。
「お……おおっ、どないしたん?」
誠志の戸惑いをよそに、育人は誠志の下にもぐり込み、股間に顔を寄せた。シックスナインの体勢だ。既に限界近くまで昂ぶっていた誠志のものを眼前に捉えて、育人が陶然とため息をついた。
「ふぁ……まさしさんの……」
ためらいなく頬張られて、誠志はにわかに息をつめた。少しでも油断すれば、たちまち射精してしまいそうだった。
「あっ、あかん、そないにされたら挿れる前に出てまうわ」
さりげなく腰を引こうとしたが、育人は離してくれなかった。
「ん、だって……はぁ、おいし……」
育人の夢見るようなささやきが、愛撫以上に誠志の性感を刺激した。
「まさし、さ……まさしさんのせーし、ほしい、です……」
「っ――煽るなあ、育人くん」
とっくに閾値越えの興奮が、いよいよレッドゾーンに達した。誠志は育人のアヌスに中指を突き刺して、弱いところをこづき回した。
「ふァああッ!」
育人がたちまち悶え、その隙に誠志が体勢をいれかえた。正面からぴったり身体を合わせると、育人が拗ねたような上目遣いで誠志を見つめた。
「もっと、させてほしかったのに……」
かわいい文句についばむキスで返事して、誠志は「あかんて」と苦笑した。
「ほんまにイッてまうから。オッサン、ひと晩に連発はしんどいねん」
誠志のぼやきに、今度は育人がキスを返してきた。こちらは舌を絡める深いキスで、さらに下肢も押しつけられた。互いに鋭く屹立したペニスが、密着した身体のあいだでじゃれ合った。
「うっ……も、あかん……限界や」
キスのあわいに誠志がうめき、「挿れてええ?」と息を殺して聞いた。育人は眉根を寄せて、「う……」と喉をふるわせた。
「う、れし……です」
育人のまなじりから、透明なしずくがぽろりとこぼれた。
「っ、ホンマ、もう――」
コンドームをつける手がふるえ、もどかしくてならなかった。
誠志が育人の膝を抱えて、中心を穿った。最奥まで突き進みたかったが、必死に堪えて浅いところに留まった。まるく熟した前立腺を亀頭でこね回してやると、育人が発情期の猫さながらにかしましく鳴いた。
「アッ、あっあっ、ああんっ、まさしさ、まさしさんッ……!」
ひとつ喘ぐたびに、育人の屹立が微かなしぶきを上げた。限界まで勃起しながらも、ほとばしるのは潮ばかりだった。吐精の手がかりを得られず悶える育人の痴態に、誠志の情緒は千々に乱れた。征服欲と庇護欲、劣情と慚愧――相反する感情が綯い交ぜになるなか、それらすべてを凌駕するいとおしさ。セックスの真価は――本来意義を越えた境地はここかと、誠志は胸をふるわせた。
誠志が絶頂に至ったと思った瞬間、育人が腰を一気に引き、結合を解いた。とっさに反応できずにいた誠志から、育人がゴムを剥ぎ取った。〇.〇三ミリの隔たりが、ぱちんと弾けて投げ捨てられた。
「ずっと、ずっと――ほしかったんです」
育人が誠志を優しく押し倒して乗り上げた。天を仰ぐ誠志のペニスが、育人にのみ込まれていった。
「んっ……う、っ……ハァ……」
誠志の根元まで腰を落とし切り、育人がうっとりと誠志を見下ろした。
「まさしさんの……せーし、おれが……おれが、ッ――」
言葉の途中で、誠志が腰を突き上げた。最奥をえぐり、柔らかな突き当たりに亀頭でくちづける。そのあいだ、育人はすすり泣きながら腰を振り、けなげに誠志の名を呼んだ。その唇がどうしても欲しくなって、誠志は身体をつなげたまま背を起こした。
育人を再び正面から抱きすくめ、乱れた呼吸ごと唇をさらった。身体の芯から熱がほとばしり、誠志は億のいのちのたねを、育人の最奥に流し込んだ。
「あ……あったかい……」
育人が恍惚と微笑んで、自らも絶頂に達した。育人のいのちのとばしりは、誠志の腹に温かくしたたった。
「……せやな、あったかい」
溶け合う体温を、今一度くちうつしで確かめた。育人の唇から微笑みが伝播して、誠志の口元が穏やかな弧を描いた。
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