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だから芳子が私を見る目...あれはてっきり私への嫉妬の表れなんだと思っていたけれど、違ったのよね。
それなのに、どうしてこんな気持ちになるのかしら。
「神間先生、大丈夫ですか?」
ふいに背後から声をかけられ、振り返る。
心配そうに少し身をかがめ、私の顔を覗き込む柏原の姿がそこにはあった。
「頭をおさえてらしたので。頭痛ですか?」
「え、えぇ。少し」
「良かったらこれ」
自身のポケットから頭痛薬を取り出した柏原は、それをポンと私の手に乗せた。
微かに触れる手から、彼の体温を感じる。
「僕も偏頭痛持ちで。薬は常備してるんです」
「…ありがとうございます。柏原先生こそ大丈夫ですか?その…またテニス部の生徒が……」
「あぁ」と呟き目を伏せた柏原は、自身の首元に手をあてた。
二年もの間彼を見続けていたら分かる。
この動作は気持ちが落ちている時や、無理に表情を保とうとしている時に行う彼の癖だ。
彼の精神は今、明らかに弱っている。
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