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「はい、ありがとうございます」
私がニコリと笑みを向けると、教頭は鼻の下を伸ばしご機嫌で去って行った。
嫌悪感でいっぱいのまま、生物室に入り鍵を閉める。
この教室の鍵を持っているのは私だけ、唯一誰の目も気にしなくて済む気の休まる瞬間だ。
「気安く触ってんじゃないわよ」
ギリッと奥歯を噛みしめる。本当に、用もない癖に顔を合わせる度に触れてくる教頭には不快感しか湧かない。あいつには羞恥心というものはないのだろうか。
「そもそもあんな簡単な資料、作れない方が可笑しいのよ。さすが三流の大学出ね」
私は某有名大学の理学部を首席で卒業している。正直、この都市でも有名なお嬢様学校に勤務している高校教師のなかで一番優れているのは私だろう。
ーーー美しくて頭も良い。それは子供の頃からずっと変わらない。
「美子ちゃんは本当に可愛いわね」「どの教科もクラスで一番なんて、美子ちゃんは本当に優秀ね」
幼少期からそう周囲にもてはやされてきた私も、もうすぐ27歳になる。
そろそろ結婚を考えたい年齢だ。
まぁ、相手はもう決まっているのだけれども。
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