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最強の口添え
「お前、今、何しようとしてた?」
王様は、舞踏会を眺め、私に聞く。
私はいやあな汗が出た。
「い、いえ、何も」
本当のことを言うことはできない。
「懐から、指輪を出してはめたのを見たぞ。婚約指輪を見せびらかして、婚約したと触れ回ろうとしていたとか?」
「え、ええっいえ、いえ、そんなことは」
「だったら、ユリシアス公のご令嬢が結婚したなんて、聞かなかったが、したのか?既成事実、作る気だっただろう?」
私は赤くなってうなだれた。
けれど、この場を利用しない手はないという、私のいけない計略脳も同時に動き出していた。
(いや、よく考えれば、これを利用しない手はない。考えれば考えるほど、王様ほど利用しない手はないわ)
王様から婚約おめでとうとでも言ってもらえれば、ぜったいに周囲は固められる。
(これは大きなチャンスよ)
私はごくっと喉を鳴らした。
相手は堅物。これぐらいやらねば、事態は打開できない。
王様なら、何より強い後押しになる。
「実は・・・・」
私は王様に相談した。
「結婚したい人がいるのですが、同意してくれなくて、ここで無理やり結婚したと言おうと思っていました」
王様は呆気に取られたあと、腹を抱えて大笑い。
しばらく抱腹絶倒が続いた。
「笑いごっちゃないんです。今後の私の人生がかかっているのですから」
「いや、すまない。公爵令嬢のそなたがそこまでするとは、おかしくてな」
王様はさらに笑った。
恥ずかしかったが、私は耐えた。
「そこまで結婚したい相手はどいつだ?」
「副宰相のアイドリアンです」
「ほう、あの若い男か。なかなかの男前だな。ふむ。お前が興味を持つ相手に、興味が出て来た。いいだろう。私が味方してやろう」
「いいんですか」
「ああ、呼んで来い」
「ありがとうございます」
私はいそいそとアイドリアンを呼んで来た。
「これは、王様・・・」
「ああ、お忍びで来てるんだ、礼はいい」
王様はふたたび私にしたように、黙っているようにと口元に指をあて、挨拶を抜きにさせると、椅子の背もたれに満面の笑顔でよりかかった。
「副宰相アイドリアン。エルセンと結婚せよ」
さすが、王様。
単刀直入に言ってくれた。
どーだい、アイドリアン
これではもう引き下がれまい。
しつこく計略し続けた私の野望がとうとう実るときが来たわ。
頑張ったから、王様という幸運のつきが回ってきたのよ。
「できません」
は?
なんてった?この堅物は。
「私のような若輩者は、まだ結婚するには早いと思っています。それに、これから我が領地は独立して、ひとつの国になる予定です。その大事な時期に、私のような者が次期王国の姫君と結婚するなどと、とても情理に合いません」
「いいじゃないか、結婚しておけば、あとから国になったとしても誰も文句は言わないさ」
「こういうのは、タイミングの問題もありますゆえ、今はまだしばらくは・・」
「どうしても、駄目なのか」
「はい」
「それほど堅苦しく考えなくていい、お互いの気持ちがあればいい。今すぐ結婚しなくても、婚約して時期を見てすることもできる」
「不確かな約束をすることなど、出来ません」
「いや、しかし、私がしろと言うのだから、お前が断るのは筋が合わぬぞ」
「いくらなんと言われようと、主の娘である大切なご令嬢の行く末を軽々しく受け入れるわけにはいきません」
王様がこちらの言いたいことを何倍にも言ってくれたのに、一行に話は進まなかった。
自分のことを言われていると思うと、長引くほどに私はいたたまれなくなった。
私は恥ずかしくなってもう聞いていられなくなった。
こんな私でも、羞恥心はあるのだ。
「あの、もういいですから」
「しかしだな」
「もう、いいですから」
引き下がれなくなった王様がさらに言い募ったけれど、私はもう諦めてもらった。
(なぜ、私が王様を止めて、私が王様を諫めるなんてことをしなければならないの?)
情けなくて、顔から火が出そうで、背を向けた。
「では、これにて」
言葉が尽きた私と王様が沈黙したのを見て、堅物で冷徹のアイドリアンは淡々と頭を下げて、背を向けてその場を去った。
やり返そうとして、やり返せなかった私と、言いくるめようとして言いくるめられなかった王様は、ただ黙っていた。
宙を見つめて。
がーん。
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