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強盗から脅す
「ああ、許してください。金はあとひと月、待ってください。金は必ず、返しますから」
サリの前には、みすぼらしい服装をした中年のやせこけた男が、跪いて手を合わせて、請い願っている。色褪せた服はぼろぼろ、手足は節くれ立ち、頭は剥げて、少ない後頭部の髪は伸びてぼさぼさ。働き続けて、苦労していると分かる。
「待てといって、待ってたら金貸しは飯が食えねえんだよ。今日までに返せなかったら、お前の家、抵当に入れるって言ってただろ。さあ、さっさと紙に署名するんだ」
金貸しの陰湿な男は、ムチを片手に、男に容赦なく詰め寄る。黒メガネをかけて、黒い帽子、黒い服と、いかにも胡散臭げだ。わずかの金でもすぐに高額の金を要求する高利貸しだ。こんな奴に、金を借りたら、お終いだ。
「お嬢様、あれはどうで?」
「なかなかいい極悪面だわね」
ラッカが見つけて来た金貸しに、私は満足した。
「そんな、家だけはご勘弁を。うちには、まだ幼い娘がいるんです」
「はあ?誰の家にも娘はいるんだ。金を返さなければ、家を抵当に入れるのは当然なんだよ。それともその娘を売りに出すか。どっちからだ、さあ、この証文に判をつけ。さあ」
金貸しは貧しい男の手を握って、判を押させようとする。男は抗って、必死に抵抗する。
「待ちなさい。ちょっとそこの高利貸し。我が領地の領民をいたぶること許さないわよ。金は返すから、ちょっと私のところへ来なさい」
「ち、ご令嬢が何のようだよ」
ぽかんとした領民を置いて、私は目つきの悪い高利貸しを川べりによんで、話をした。
「これ、高利貸し。お前の目つきの悪さ、態度の悪さ、柄の悪さを見込んで頼みがある。ある一人の男を襲って、はやくエルセンと結婚しろと脅すのです。怪我はさせなくていい、ただちょっと叩くふりをして、驚かすだけでいい」
手頃な悪漢がいないので、高利貸だ。我が領地は平和なのだ。
「お礼の金は渡す。これでやってくれたら、お前の領地内の不法行為は見逃してやる。居残ったり、私を脅すようなら、牢屋に収監してやる。分かったな」
「はあ、そいつを脅すだけでいいんで?」
意味は分からないが、それだけで大金が手に入り、違法行為も見逃してくれるとあっては上手い話と思ったようだ。
こんな高利貸でも、商売をしているから、経済観念もあって、取引も通じるのだ。
「それなら、お安い御用でさ」
高利貸は快く、引き受けた。
翌日。
ラッカに連れられて、高利貸は王宮の外に潜んだ。
午後、王宮の外へ出ようとしたアイドリアンの馬車の前に立ちふさがった。
私はそばの茂みから見ていた。
「へっへっ。俺の前を通るたあ、ここで会ったが百年目。神妙にしろい」
「覚悟しろう」
悪い男に扮装したラッカも参加だ。
「なんだ、いきなり出て、不審な奴め」
「馬車の中のやつ、でてこーい」
強盗のふりをした高利貸は、剣を振り回し、馬車を脅した。
「強盗か、王宮を出たところで、副宰相の馬車を襲うとはけしからん」
「あ、あのー、御者さ」
御者にそっと耳打ちしようとしたラッカが、襲って来たと勘違いされて、御者に横倒しにぶっとばされた。
呆気に取られる私の目の前で、弱者には強い金の亡者は、すぐに頬をグーパンチで殴られてしまった。
「ぐわ、う、ぐえ」
さらに体にボディフック、頭に肘鉄、倒れたところで背中を剣で叩かれて、すぐにノックアウト。
「どうした?」
「おまあ・・・えぃどりぁ・・・けっこ・・・(お前エイドリアンと結婚しろ)」(名前間違っている)
「え?」
さすが私が見込んだだけある。人相が悪さにかけては人一倍の高利貸が最後に根性を見せてくれた。
「おお・・・け・・・こ・・・(お嬢様と結婚しろ、金を奪われたくなければな)」
ラッカは何を言っているのかすら、分からなかった。
「どうした?」
アイドリアンが馬車から顔を出した頃には、ひいひい言いながらラッカと高利貸は逃げていた。
「分かりません。急に出てきまして」
「強盗団が現れたのかも。衛兵に連絡して、捜索させよ」
「は」
従者の連絡で、急に兵士が出回り、辺り一帯不審者の捜索が始まった。
「逃げて」
私は必死で高利貸を逃す手伝いをせねばならなかった。どちらが強盗だか。
「もう、二度とこんな地方には来ません」
高利貸は泣いて逃げた。
助かったか、良かったのか。
ひいひい。
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