思い出

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 幼い娘は倒れた。走って走って、足がもつれて。 「ひ・・・ひどいっ・・・えっ・・・えっ・・・」  エルセンの大切にしていたガラス瓶の置物が、父と母の痴話げんかで、投げつけられて、床に砕け散った。ガラスに雪が舞うもので、遠い世界の景色を映したそれは、エルセンの宝物だった。なのに、また買ってあげるからなんて、簡単に言わないでもらいたい。 「お嬢様、大丈夫ですよ」  そのとき、馬に乗って追いかけて来た少年がいた。  手には砕け散ったガラス瓶細工があった。 「え・・・どうして、これを?」  エルセンは受け取って、信じられない思いで、瓶を見つめた。 「直しましたから」  何かおかしなことでも言っているのかという動じない表情で、当然のごとくそれを差し出す。  受け取ったそれは、ひび割れていたけれど、ちゃんと元通りになっていた。  きっと時間がかかっただろうし、これほど小さな破片まで見つけてはめ込んでくれたのはあちこち相当探したはずだ。  彼はエルセンの胸を絶望からすくいあげてくれた。  彼の名は、アイドリアン。将来、エルセンの国を背負ってたつ宰相になる男だった。
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