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そして、私は・・・
で、私はというと・・・
でも、私は・・・
(そう言えば、騒動があってすっかり忘れていたけれど、私はアイドリアンとの結婚を計略していなかったか?いや、していた)
でも、謀反問題があり、国が独立するなど、それどこでろでなくなったのだ。
晴れて公国のご令嬢となったのに、私は夢を失ってしまった。
王宮の庭園で、ブランコに乗ってぶらぶらしているときに、私はアイドリアンが直してくれた、ガラスの置物を手に取って眺めた。
細かく砕けてひび割れているけれど、見事に修理してある。
これほどまでに上手で、これほどまでにしてくれる人ならと、そう思ったのに・・・
そこへ、珍しく、アイドリアンから声をかけてきた。
私は慌てて、ガラスの置物を隠した。
「やれやれ、今日はおとなしいじゃないですか。私との結婚をするんだと息巻いていたのに、もうしないのですか?」
「な、なによ。愛想もそっけもないくせに、身も蓋もなく言うのね。その調子じゃ、私が結婚するために立ち回っていたこと、知ってたようね」
「ええ、しっかりと私にばれていましたよ。あれだけ大胆に食らいついてきたら、誰でも分かります」
私は恥ずかしさに、穴にでも入りたい気持ちだった。
でも、最初からアイドリアンと結婚したいと言っていたし、やったことは必要があってやったこと。後悔はしていない。
「クサーバー領地伯を助けて、謀反の疑いをかけられた時は、さすがに肝を潰しましたよ。混乱に乗じて、奴ら一味から脅され返されたり、こちらに責任をなすりつけられたりしそうになりましたが、私も王様の家来たちに連絡して、なんとか納得してもらいました。我が領主と、あなたが無事で良かった」
アイドリアンもあの時、私や父を守ろうとして、忙しく動き回ってくれたことを私も知っている。
あの混乱の時に、アイドリアンが我が領地を守ろうと、王国軍と対峙して、国境付近で足止めをしてくれたのだ。
(あのまま私までもが、父に話を渡していたらと思うと、ぞっとする。王家の中心にいる私が話を知っていたら、謀反が嘘ではなくて、謀反の疑いは現実のものとなっていたかもしれない)
でも、なんとか未然に事態が解決できて良かった。
「ごめんなさい、あなたもさぞ心配したでしょう」
日頃の行いが良いから、最悪の結果にならずに済んだ。
だって、令嬢としての慎みは持って、父母には親孝行してたもんっ。
一歩間違えば、大惨事だった。
そこが運命の怖いところだ。
「迷惑かけて、悪かったわ」
身から出た錆だけど私が強引なやり方をしようとしなければ、大惨事の道も開かなかったわけで・・・
自ら惨事に陥るところだったのを私は反省し、彼にその気持ちを伝えた。
「仕事ですので、お誉めにあずかることではございません。お気遣いなく。あなたこそ王様に訴え出て、疑いを晴らしてくれた。今回は素晴らしいお働きでした。この国を救っていただき、ありがとうございます」
私は礼を言われても、嬉しくない。
これもすべて私の不徳のせいで、私の結婚話が元で王様と出会ったおかげで。
ああ、何かもう分からなくなってきた。
ただ、分かることは、アイドリアンは私の手に入らないということだ。
私の心はうつろだ。
私のものでない、私のアイドリアン。
遠い存在を噛み締め、私は背を向けた。
「安心して、もう二度と、あなたに関わらないから。もう、迷惑をかけるようなことはしない。大人しくご令嬢として、過ごすわ。公国のご令嬢なんだもの。慎み深く、慈悲深く、生きるわ」
「あなたがクサーバー領地主に接近し、手を結ぼうとしたこと、私は何とも思っていません。あなたの地位では誰とでも会話する機会はあり、政治的な話を聞くこともあるでしょう。それを知っていたから、話したからといちいち咎められることはありません。気にすることはありません。話をする程度で捕まっていたら、人がいくらいても足りません」
「もういいから。私がやりすぎたの。今後は、自重します」
全てをアイドリアンに知られて、恥ずかしいことこの上ない。
その上、反省点をまた思い出させないでもらいたかった。
「なぜです?もう、私のことは諦めたのですか?」
「あなたこそ、なぜ私のことをそれほど気にするの?追いかけても、気にも止めないのに、気を使ってもらわなくて結構よ」
振り向いてくれないなら、優しくしないでもらいたい。
国を助けた私だから、副宰相の彼は調子が違うのを心配して様子を見にきたのだろうけれど、気を使われても辛いだけだ。
「あなたがそこまでするなら、私も折れてみようかと思ったのですが・・・」
「え?」
振り返ると、あの堅物アイドリアンがちょっと頬を赤らめていた。
「あなたがそこまでしてくれるなら、私もあなたの気持ちを受け止めようと考え直したのです」
「え、私を思うアイドリアンは、私が思うので私のことを・・・?」
私は驚いて、そこらへんの草を引き抜き考えた。
そして、私の思考は訳の分からぬものになってしまった。
「あなたには、負けました」
あの堅物のアイドリアンが、私の前に来て、私の手を取り、微笑んでくれた。
「つまり、堅物があなたが、私の賢明さに、折れる気になったと?」
「はい」
本当かどうか、私はアイドリアンを見た。
「今でも、まだ、私に心はありますか?」
夢じゃないみたい。
私は遠慮がちに、その手を掴んだ。
私の心の中がぶわっと温かいもので満たされた。
ええい、アイドリアンめ。
今までの不幸せだった埋め合わせはたっぷりとさせてやるからね。
見てなさい。
(了)
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