第二の強引な手法 お茶

1/1
前へ
/20ページ
次へ

第二の強引な手法 お茶

「お嬢様、来ましたぞ」  私の下僕ラッカは、茂みに隠れた私に報告してくれる。いい年こいたおっさんだが、私の命令なら何でもしてくれる。  小鳥属の小鳥人間で、髪の毛が羽毛になっている。  小鳥人間として生まれ、村の外では仕事がないけど、人間世界で立派になりたいと、村を出て来た。  人間世界では小鳥人間は毛嫌いされているので、やむなく、私の忠実な部下となった。いつか父の元で働きたいと望んでいる。 「あ、アイドリアン副宰相、こちらへどうぞ」  通りかかったアイドリアンを当然のように誘引してくれる。  私の召使は、出世の鬼だ。  私は緊張して待ち構える。  あのとき彼は優しかった。  あれ以来、結婚するなら彼と、と決めている。 「どうも」  私はアイドリアンの前へ出た。 「何か?」 「私、あなたに相談したくて、ちょっと庭を歩きながら、話さない?」 「私の及ぶ範疇でしたら、お助けいたしますが、人の目もありますゆえ、何のご相談か、とりあえず、教えてくれませんか。それによっては、部屋でお聞きしますゆえ」 「ええと、あの、お茶でも飲みながら、話さない?」 「お茶、ですか」  庭を歩いたり、お茶を飲んだりするのは、男女の常だから、まずはそこへ引きずり込む作戦だ。 「ラッカ、お茶の用意」 「がってんだ」  着座させて捕獲完了だ。 「本当に、お茶だけですか?」  アイドリアンの高い鼻梁からの眉間にしわが寄り、さらに怪訝な表情になる。 「ええ、ええ」  うそだよーん。  本当は思い切り、結婚話切り出すためだよーん。 「今は、領地が公国として昇格しようとしていて、役所や周辺地方と折衝もしている。この忙しいときに、ですか」 「ええ、まあ・・・まあ、そうなのですが」  若くして、副宰相まで上り詰めたアイドリアンは、難物なほどの堅物だ。  同僚のヨゼフィーが言うには 「あいつは仕事一筋で、仕事以外の話はしない、関わらない。もし、人と話したとしても、その話も事務的で、感情のひとかけらも見当たらない」  と言う。  確かに。  子供の頃は、まだ愛嬌があったが、今では性格の機微も見られない。   私はまだ子供の頃、彼に宝物を修理してもらった思い出が胸に残っている。  だから、悪い奴じゃないことは分かっている。 「あの、お茶ぐらい、いいのではないかと思ったのです」  子供の頃は仲良く、外を駆けまわっていたよしみだ。  今でも少しぐらいは私のことを心良く思ってくれているはず。  そう思ってるけど・・・  けれど、だんだんと機嫌が悪化するアイドリアンを見て、自信がなくなってきた。 「私もあちこち回って、やっと帰って来られて、国内の政務もまだ山のように処理しなければならないのですが」   眉間のしわがさらに深くなり、怒りの炎が怒張する。  ぎらついた眼が、私を睨む。 「ええ、ですから、一息つくのに、お茶はどうかと思ったのです」  なにせ、私は大公爵の娘だから、権力があるから、引き下がらなくいい・・・はず。 「お茶だけなら、どうぞ他の人とお飲みください。私は持ち帰った仕事を片付けなければなりませんので」  ぷい。  がーん。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加