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第三 親頼み
フフフ。やったらやり返してやるわよ、アイドリアン。
己が駄目なら、両親に頼んでみるわ。
同じこと繰り返している気がするけど、これが袋小路ってやつかしら?でも、なんてったって、この地方のトップだからね。両親は私に甘いし。
これで断ることが出来るかっての。
「そこまで、アイドリアンとの結婚したいということは、お前の気持ちには感動したよ」
父ユリシアスは、驚きながらも喜んでくれた。
「お前がどこかに嫁ぎたいと思ってくれて、父は安堵している。お前もひとなみに、れっきとした人間だったのだな」
いったいどういうことよ。私ってどれほどひどい人間なの?
まあ、それはこの際、置いておいて。
「父上、それで、アイドリアンとの縁談を取り持ってくれるでしょうか」
「しかし、アイドリアンは堅物。女にも興味を示さない難物。お前には扱いにくい。嫁いで、冷遇されても困るしな。聞くところによると、あやつにもそれなりの縁談話があると言うし、わしは他の男を紹介したいと思っているのだが」
「一国を担える才能がある男なのです。のらくらした貴族連中よりも、私は才能や特技がある男性のほうを好みます」
「しかし、あいつは高望みだと思うぞ」
「あいつでいいんです」
「仕方ない。お前がそこまでそう言うなら、話してみよう」
やった。
父ユリシアスが承諾してくれた。
私は心の中でガッツポーズした。
その後、天気の良い日に、中庭でお茶をして話すという機会が与えられた。
薔薇庭の中にある天蓋付きのテラスに、アイドリアンは黒衣でやって来た。
「ラッカ、お茶の用意」
「は、がってんでい」
これで、スタート地点に戻る、だ。
「お呼びと聞きましたが」
「お見合いの話をしたのではなくて?」
「ええ、その話をするようにと、ここへ来るように言われました」
「ああ、そう」
分かっているじゃない。
私はお茶を飲みながら、内心ほくそ笑んでた。
次女がこぽこぽとお茶を入れて、下がるのを待ってから、私は言った。
「で、返事は?」
アイドリアンはおもむろに口を開いた
「私との結婚をお望みとか、それは大変光栄に思います。が、なぜ、私をお選びになったのでしょうか?」
「それは、私があなたのことを好きだから」
「は?子供の頃は外でよく遊びましたが、学校へ上がる頃には、もう近づくこともなく、今まで特にお話した記憶もございません」
「そりゃあ、そうだけど、私は子供の頃から、あなたのことを」
「お言葉ですが、子供の頃と、大人になってからの自分とは、多少違います。今の私のことは何も分かっておられないと思います」
「けれど、あなたが今でも昔と変わらないのは、知っています」
「いえ、人間というものは、子供の頃と大人になってからでは違うものもあるのです。あなたも、私も、もう親しかった間柄ではない。すでに他人。このようにお嬢様自ら前に出張られて、品格を貶められますな。こちらも困ります」
「では、今から知り合っていけばいいわ。お互い、知らない部分を埋めていって、お互い、知ることのなかった部分を知り合って」
「それに私は未熟者。まだまだ人様をもらうような偉い人物にはなりきれていません」
「では、成長するまで、その時間を使って、お互い知り合いましょう。いえ、ぜひとも、知り合いたいわ」
「なぜ?いきなり他人同士がそのような溝の埋め合い的なことを?」
「それは」
「私は仕事が忙しいのです。そんな時間はありません。失礼します」
がーん。
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