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第五 プレゼント攻撃
普段の私は、女性がよくやる刺繍や洋裁などにとどまらず、農業から土地の測り方、法律まで幅広く、勉学と趣味に励んでいる。
アイドリアンに負けず劣らず、私もある意味、やり出したらとことんやる頑迷な部分はあるかもしれない。
裏庭では、農作物まで育てている。収穫した野菜がうまいと朝に言うのが、私の日課だ。
つまり、私は手先が器用で、わりと作ったりするのが得意。
私のことを良く知らない。向こうも、自分のことを良く知らない。と言うなら、まず私のことを分かってもらえばいいのでは?
それには、私がこういうことを出来るとアピールしたらいいと思った。
諦めないわ。ちょっとやそっとじゃへこたれないもの。
次はプレゼント攻撃よ。
私はせっせと刺繍をすることにした。
「できた・・・」
黒い外套の縁に、金色で草花の幾何学文様を入れて、仕上げてみた。豪華な感じだ。
「すごい」
窓際に掛けてみると、リリーアは誉めてくれた。
茶色の髪、明るい目で、ご貴族らしい淡い橙色のワンピースを着て、人形みたいに可愛らしい。
私の子供の頃からの友達だ。
ヨゼフィーの恋人らしいが、リリーアからはそんな話は聞かない。
「リリーア、あなた、恋人いるって本当なの?」
「恋人?」
ぜんぜん思い当たらない人の無垢な表情。
ヨゼフィーの欲望なんて考えるに及ばず、私は自分の作品に目を向けた。
いつも黒とか灰色とか、地味なアイドリアンの選択にはなさそうな外套だが、目立たないように細く入れた。だから、それほど豪華にも見えず、格好良いものが出来たと思う。
「我ながら、すごいものが出来たと思う」
「こんなすごいものもらったら、絶対、気に入るわよ、あなたのこと」
私はリリーアに自信をもらった。
よーし、次はモノで勝負よ。
私は出来た次の日、アイドリアンにプレゼントしてみた。
城にあるアイドリアンの部屋に入って、アイドリアンの机の横に、衝立にかけて来たらばっちり見えるように置いてみた。
そして、その横にあるソファ椅子に私は座る。待機だ。
ドアが開いて、アイドリアンが入って来た。
「え?なぜ、あなたがここに」
私はふふっと笑って、さあ、話そうと口を開きかけたときだ。
忙しさに私に構っていられないアイドリアンは、すぐに部屋の奥まで書類片手に進んで、机に近づき、目の前の黒い豪華な外套に気づいた。
「なんだこれは。誰だ、ここにこんなものを置いたのは」
目に入るや否や、あの堅物のアイドリアンが言うに似つかわしくない素っ頓狂な声を上げた。
「なんと、趣味の悪い」
・・・ショック。
私は耳に聞こえた言葉が信じられなかった。
あの趣味の良いリリーアでさえ、素晴らしいと誉めてくれたのに。
私はけっこう趣味が良いと言われるから、絶対趣味が悪いわけがない。
つまり、目が備わってないのは、アイドリアンだ。
アイドリアンのほうこそ、堅物で、見る目もなく、情緒もない。毎日同じ黒ばっかりで。趣味も悪い。
「結婚してくれないなら、あなたが人妻と不倫したという話をばらすから」
頭に来た私は、思ってもみないことを口走っていた。
今まで考えつかないことを、その場で考え付いてしまったのだ。
「次は、私を脅すつもりですか?」
本気にも取らず、意にも介さず言うアイドリアンの冷淡さがすごく気に入らなくて、私は叫んでいた。
「もういい。おぼえてなさい。いつか、やり返してやるから」
何、言ってるの。
私は振られ女で、アイドリアンへの復讐を企む女で。
これでは話がぜんぜん違ってしまうじゃない。
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