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「兄ちゃん、一人か? なにそんなとこで若いのが黄昏れてんだ」
広場にあふれる輝きを眺めていると、突然横から声をかけられた。
はっとして声のした方を見ると、そこにいたのは齢四、五十かという男。
生成色のシャツに茶色い皮のベスト、テールグリーンのコットンパンツというこの街にありふれた男の出で立ち。
明るい金髪に合わせた服の色合いは、所々皺の寄り始めた男の顔を幾分か若く見せている。
死神だからといって人間には姿が見えないなんてそんなことは全く無いが、今までここに座っていて声をかけられたことなど無かったので、僕は文字通り、飛び上がるように驚いた。
「あー、わりぃわりぃ。驚かせちまったか? いやなに、俺もここへはよく来るんだ。そのたびに実は見かけててな。おまえさん、いつもそこに一人で座ってるだろ? 何やってんのかちょいと気になってな」
驚きに声も出ず目を見開いていると、声をかけてきた男が目元にしわを寄せ「にししっ」と人の良さそうな笑みを浮かべながらそう言った。
「ただ、広場の人たちを眺めているだけで。何も、してないっすね」
ようやく驚きが収まってきた僕は、ありのままに答える。本当に何もしていないのだから、ありのままも何もそう答えるしかないのだが。
「ほー。そうか。ま、この広場は街ん中でも特に見ていて飽きないよな。集まってくる人もなんだか暖かい色をしていやがる」
そう言った男の言葉にはっとした。
「――っ! 暖かい色って……見えるんですか?」
ついそう聞いていた。すると、男は少しきょとんとして僕の問いに答える。
「みえる……ってのが何かは知らねーが、ガキどもの顔だの、じーさんばーさんの様子だの見てりゃ、なんつーか、うまくは言えねーが暖かい感じがするだろ? おまえさんも、それを見てたんじゃねーのか?」
もしやこの男も魂の焔が見えるのではないかと思ったのだがどうやらそうではないらしく、少しだけ残念になる。しかし。
「そう……っすね。この広場は特にあったかい色の人が多いと思います。僕も、見ていてなんか心が温まる」
少し見え方は違っているが、男の言うことはその通りだった。僕の答えを聞くと、男は「だよな」といってまた目元に皺を寄せ笑ってみせた。
そんな話をしていると、いよいよ西の空に沈む太陽は真っ赤に染まり、東の空では夜の端っこが見え始める。遠くから教会の晩鐘が聞こえてきた。
もうすぐ、日が暮れる。
「おっと、こんな時間か。じゃあな、兄ちゃん! また会ったらよろしく頼むぜ」
そう言うと、男は片手を上げてにこにこしながら僕に背を向け歩いて行った。いきなりやってきた男は、去って行くときもいきなりだった。
――そういえば男の焔、あれは何色だったんだろう?
夕日が照らす広場は鐘の音を合図にして、賑やかさが幻であったかのように広場は静かになっていった。
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