第1話 ツカサくん襲来

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抱えてみると、彼は体も、息も熱かった。 (あれからなにも食べてないの? ほんとにバカなんだから!) ツカサの体を引き摺ってどうにか部屋へ引っ張り込んだ比菜子は、座椅子にもたれさせ、自分の発熱用にストックしているスポーツドリンクをストローで飲ませた。 その間にテーブルを畳んでスペースを作り、ベッド下から来客用の布団を出して敷く。 途中、部屋干ししていた下着を思い出し、一旦カゴに入れて押し入れに突っ込んだ。 準備が整うと、比菜子は全身の力を振り絞り、ツカサをお姫様抱っこして布団の上へと乗せる。 「ハァ、ハァ、まったくもう……」 寝かせてジャージのジッパーを下ろし、濡れタオルで額や首もと、襟から手を伸ばせる範囲の部分の汗を拭き取ってやり、枕の下にはタオルを敷く。 体温計を脇に挟ませて一分おいてみると、見事に三十八度五分と出る。 (やっぱり熱ある) 比菜子は薬箱を取り出し、ストックしていたマスクを自分につけて、目の前の患者より先に風邪薬を飲んだ。 (こっちまで風邪引いたら、私の方は誰にも助けてもらえないんだからね) いつだったかインフルエンザになりタクシーで病院に行ったことを思い出し、瞳が潤む。 (なにがあったのかは知らないけど。昨日はひとりで苦しんでたのかな) そっと彼の前髪を指で分けてみると、いつの間にかぐっすりと眠っていた。あの鋭いつり目の猫みたいな顔は、今は安心したのか、あどけない表情に変わっている。 「……ツカサくん。起きたらご飯たべて、薬飲みなさいよね。シャワーも浴びて、ちゃんと着替えて」 眠っているツカサの頭を撫でながら、比菜子はしばらく彼の顔を眺めていた。 (……あれ? なんだか私、この猫拾ったみたいになってない……?) ──今さら気づいても、もう遅かった。 突如襲来した猫系年下男子ツカサくんは、いったい何者なのか? それがわかるのは、もう少し先のお話。
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