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抱えてみると、彼は体も、息も熱かった。
(あれからなにも食べてないの? ほんとにバカなんだから!)
ツカサの体を引き摺ってどうにか部屋へ引っ張り込んだ比菜子は、座椅子にもたれさせ、自分の発熱用にストックしているスポーツドリンクをストローで飲ませた。
その間にテーブルを畳んでスペースを作り、ベッド下から来客用の布団を出して敷く。
途中、部屋干ししていた下着を思い出し、一旦カゴに入れて押し入れに突っ込んだ。
準備が整うと、比菜子は全身の力を振り絞り、ツカサをお姫様抱っこして布団の上へと乗せる。
「ハァ、ハァ、まったくもう……」
寝かせてジャージのジッパーを下ろし、濡れタオルで額や首もと、襟から手を伸ばせる範囲の部分の汗を拭き取ってやり、枕の下にはタオルを敷く。
体温計を脇に挟ませて一分おいてみると、見事に三十八度五分と出る。
(やっぱり熱ある)
比菜子は薬箱を取り出し、ストックしていたマスクを自分につけて、目の前の患者より先に風邪薬を飲んだ。
(こっちまで風邪引いたら、私の方は誰にも助けてもらえないんだからね)
いつだったかインフルエンザになりタクシーで病院に行ったことを思い出し、瞳が潤む。
(なにがあったのかは知らないけど。昨日はひとりで苦しんでたのかな)
そっと彼の前髪を指で分けてみると、いつの間にかぐっすりと眠っていた。あの鋭いつり目の猫みたいな顔は、今は安心したのか、あどけない表情に変わっている。
「……ツカサくん。起きたらご飯たべて、薬飲みなさいよね。シャワーも浴びて、ちゃんと着替えて」
眠っているツカサの頭を撫でながら、比菜子はしばらく彼の顔を眺めていた。
(……あれ? なんだか私、この猫拾ったみたいになってない……?)
──今さら気づいても、もう遅かった。
突如襲来した猫系年下男子ツカサくんは、いったい何者なのか?
それがわかるのは、もう少し先のお話。
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