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第11話 忍びよる影
朝になった。
一睡もできなかった比菜子は、ドライアイを発症させながらベッドに横たわっていた。
(……私、なんで急に……嫌われたんだろう……?)
ぐるぐる考え込んでもわからない。
ツカサに聞き出したくても、『俺は大っ嫌いだ』宣言のショックが大きくてなにもできなかった。
(入社を急かしたことがよくなかったのかな。でもツカサくんは寛容なのに、あんないきなり……)
気を抜くとじわりと涙が滲み、ドライアイを潤ませていく。
(ツカサくん、帰ってきて……)
* * *
「ツカサくん。なんだか今日は笑顔がないね。大丈夫?」
チェリッシュでは客が引き、店長の戸崎が一日気になっていたことをツカサに尋ねた。
「いや……大丈夫っす。ちょっといろいろあって。すみません」
「比菜子ちゃんと喧嘩でもしたの?」
カウンターを拭いていたツカサは、わかりやすくピクンと揺れる。
そんな彼に戸崎は「フッ」と笑みをもらした。
「今日の朝、休憩室でパン食べてたよね。朝ごはん作ってもらえなかったんだ?」
「……べつに」
「それとも、もしかしてツカサくんまた家出してるとか」
図星の彼はなにも答えなくなる。
「……べつに、家出ってわけじゃ……」
「どこに寝泊まりしてるの? 雇い主としては居場所を知っておく必要があるから教えてほしいんだけどな。ね?」
雇い主と言われては拒否できず、ツカサはきちんと戸崎と向き合い、「……ネカフェです」と答えた。
「ネカフェね。……そしたら、比菜子ちゃんはアパートにひとりなんだ?」
「? そうですけど」
戸崎は唇を指で触れ、目を細めながら、
「……ふうん……」
とつぶやいた。
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