第11話 忍びよる影

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* * * (遅くなっちゃった……!) 仕事を終えた比菜子は、大通りをスーパーの袋をぶら下げて駆け抜ける。 途中、チェリッシュの店先から横目で覗くが、ツカサの姿はなかった。 (まだバイト中のはずなんだけどな) 「比菜子ちゃん?」 「え」 聞き覚えのある声に呼ばれて振り向くと、テラス席を片付けていた戸崎が立っていた。 「店長さん……」 「久しぶりですね」 職場にやって来てはツカサが迷惑するだろうと思い、比菜子は「また今度食べに来ます」と苦笑いでやり過ごそうとする。 (店長さん、私のことちゃん付けで呼んでたっけ) 自然に距離を縮めてくる戸崎に戸惑うが、彼が「ツカサくんはおつかいを頼んでいるので出かけています」と先回りして教えてくれたため、比菜子は赤くなって下を向く。 「そうだったんですか。すみません」 「これから帰るところですか?」 「はい」 「じゃあ近くまで一緒に行きましょう」 戸崎は比菜子のスーパーの袋に、手を差し出す。 「えっ」 「暗いですし、ひとりじゃ危ないですよ。僕もあちらの商店街にチラシを置きに行くところだったので」 「……………あ、そうなんですね。じゃあ……はい。一緒に」 目的地が近いとなれば断る理由は見つからず、比菜子は大人しく戸崎が隣を歩くことを受け入れた。
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